2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
ひらりちゃんの童話集
「雨の降る日は・・・」


雨のふる日は
   空色のかさと
    銀色のしずく


ポッポッポツーンシュシュシュバーンポンサー。
 強くなってきた雨が、ちひろの空色のかさをたたく。
トンパラトンパラツツツツツー
〈もう。早く帰んなくっちゃ、ピアノに遅れてしまうわ。〉
 ちひろは、雨で顔をぬらして、横断歩道のむこうの信号を見た。
〈黄色か。いいや、わたっちゃお。〉
ちひろは、急ぎ足で横断歩道をわたり始めた。
 ブッブー! いきなりクラクションがなって、トラックが、つっこんできた。
「あっ!」
 キキキキキーッ! 急ブレーキの音がして、ちひろは、はねとばされた。宙にういたその瞬間、ちひろは、信号が赤く光っているのを見たような気がした。そして自分の空色のかさが、銀色のしずくといっしょに泣いているように思えた。

 エーンエーンちひろちゃーん。はやくわたしをさして。エーンエーン。かさは泣きつづけた。しずくはかさをなぐさめているかのように、トンパラトンパラとかさの上におちてきた。それでもかさは、いっそう悲しそうに声を上げて泣いた。エーンエーンヒッヒッヒーッ。ちひろはこまってしまった。そして、なぜか急に重たくなってしまった手をいっしょうけんめいにかさの方にさしだした。けれども手はなかなか言うことをきかない。思わずちひろはウーンとうなってしまった。そうすれば少しでも力が入ると思って。ウーンウーン。その時、パッとかさと銀色のしずくがわれるように消えた。見えるのは真っ白い空だけ。それでも泣き声はまだ聞こえる。ちひろは手をその泣き声の方にさしのばした。首もまわそうとした。ズキーンと、いたみが首から頭全体にはしった。
「いたい。」
 ちひろは小さく声を出した。

「まあ、ちひろ気が付いたのね。わかる?お母さんよ。」
 ちひろはその女の人のぬれた顔を見て、泣き声の主だと分かった。けれどもお母さんだとはわからない。女の人はちひろのまくらもとの白いブザーをおして二言三言話した。すぐに真っ白い服をきたかんごふさんが二人走りこんできた。めがねの男の先生もいっしょに入ってきた。。そしてびっくりしているちひろの眼をじっと見ると、かんごふさんに何かしじした。ちひろは、そんな様子を不思ぎそうにじっと見つめているだけだった。

 やがてかんごふさんがもどってきた。手にはそれぞれ黄色い大きい板をかかえていた。その板には、絵やひらがな・かたかな・数字、漢字などが書いてあった。先生はまず、絵のかいてある板を受け取って、一つの絵を指した。
「ちひろちゃん、これなんだかわかる?」
「時計」
「そうだね。じゃ、これは。」
「めがね」
「これは。」
「ちょうちょう」
「じゃあ、これは?」
「自転車 ― でしょ」
先生は、ウンウンとうなずいて、今度はひらがなの板をとり出した。そして一番上の字をさした。
「これ、なんて字だかよめる?」
「あ。」
「そう。じゃこれは?」
「き」
「そう、よめるね。」
そして心配顔のお母さんに
「大丈夫。べつじょうありません。けれどもうしばらく様子をみましょう。あと左手のけがは、かるいこっせつですので、心配はありませんよ。それでは、ちひろちゃんはあまり動かないようにね。おだいじに。」
と言って、病室から出て行った。後にのこった二人のかんごふさんは、黄色い板をかたづけ始めた。ちひろは痛む首をわずかに動かして、それを見ていた。年とった人の方はかんご婦長のマークをつけていた。もう一人の若い方の人は、とってもきれいで、やさしそうだった。そしてかんご婦長が帰った後、
「ちひろちゃん、私がこれからあなたのお世話をする秋みよ子です。よろしくネ。さっきの主治医の先生は野本先生とおっしゃるのよ。」
と若いかんごふさんはニッコリわらった。ちひろはあわてて
「ちひろです。よろしく。」
と言った。そして、ねたままあいさつをするのは変な気分だなぁ、と思った。秋かんごふは
「それでは。」
とお母さんに頭をさげると、ちひろにバイバーイと手をふって出て行った。お母さんは、
「なんだかおもしろい人ね。」
と言って、
「お母さんは家に電話かけてくるわね。お父さんも心配しているだろうから。動いちゃだめよ。まっててね。すぐにもどるから。」
と心配そうに言って、パタンとドアをしめて病室から出て行った。

 ちひろは何が何だか、わからなくなってしまった。
〈あの女の人が私のお母さんだとすると、お父さんもいるのよネェ。でも私はお父さんの顔を知らない。お母さんだって会ったばかりにおばさんみたいな感じなんだもの。だいたいが、どうして私はこんな所にいるんだろう。頭や手に白いほうたいなんかまいて…。ああ、わからないわ。でも先生はべつじょうないって言ったし、字だってちゃんと読めたもの。…そうね、心配することないんだわ。〉
ちひろは自分にそう言ってみたものの、何かすっきりしない。頭の中の一部が、とうめいになってしまったように、一番大切なことが思い出せないのだ。それが何だかはよくわからない。けれども、とっても悲しい声が聞こえてくるような『何か』なのだ。

 お母さんがおぼんを一つもって帰ってきた。
「ちひろ、お父さんは明日来て下さるってよ。よかったわね。はい、これはお夕食よ。お母さんが食べさせてあげるから、ちひろはねたままでいいのよ。」
ちひろは知らない人としゃべっている時みたいにコチンコチンになって、
「ありがとう。」
と言った後に、「あばさん」と言いそうになって、あわてて口をつぐんだ。
〈おばさんと言えば、私のお母さんだという女の人はびっくりするだろう。そして、こわい検査やちりょうをやられるだろう。〉
ちひろはブルブルッと身ぶるいをして、できるだけ明るい口調で、
お母さん、こんだては何?」 と聞いた。お母さんはおどけて言った。
「真っ白いご飯に、じゃがいもとにんじんと玉ねぎと肉のにものよ。それに牛にゅうとヨーグルトでございます。おじょう様。きらいな玉ねぎも食べねばなりませぬ。」
ちひろもクスッとわたって、
「ぜったい食べねばいけませぬか。」
「はい、ぜったいでございます。おじょう様。まあ、食べてみなされ。」
しかめっつらをして玉ねぎを食べているちひろを見て、お母さんは声をたてて
「アハハ…、ちひろったら。」
とわらった。そのわらい声を遠くに聞きながら、ちひろは考えていた。
〈あの私のお母さんという人が、私が玉ねぎがきらいだって言うから、どんな食べ物かと思ったら…。そういえば口でトロッと、とけるみたいできもち悪いわ。〉
それからちひろはアッと思った。
〈私、こんなもの食べたことなかった。私いままで、いつも何を食べていたのかしら。いつもこの人といっしょだったのかしら。〉
―つづく―

(「つづく」となっていますが、この話の続きが見つかりません。続きは創られていなかったようです。どなたか、続きを創ってくれませんか。)
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