2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
企業経営の社会主義化(16)
アウトドア衣料会社パタゴニアの場合(3)


 完全フレックスタイム制のおかげで人生を堪能し、「収入の差なんて問題じゃない」と言っていたウェリングに再登場してもらおう。ウェリングがもう一つ活用してきたパタゴニア独特の制度がある。本社に設けられた託児センターだ。親たちは子供を預けた後、託児センターにふらりと立ち寄って子供と一緒にランチを食べたり、おしゃべりをしたりすることもできる。なにしろ完全フレックスタイム制なのだから。

 ウェリングは5歳と3歳の息子たちを預けている。毎朝9時に預け、夕方5時に迎えにいく。そこで子供たちはのびのびと育っている。ウェリングは言う。
「いつでもすぐ近くに子供たちがいるというのは、すばらしいですよ。よその会社に勤めていたら考えられなかったような触れ合いが持てます」

 この保育センターが生まれた経緯とセンターのサービスの内容は次のようだ。

 1970年代、事業が拡大を続けていたころ、シュイナードと数人の従業員が家庭を持つようになった。シュイナードの妻マリンダも登山愛好家だったが、何人かの従業員が赤ん坊を段ボール箱に入れて、仕事場に連れてくるようになったのを見て、本館に託児施設を作ってはどうかと言いだした。

 コストやルールについて何カ月も議論を重ねた結果、グレートパシフィック託児センターが生まれた。現在72人の子供を預かるこのセンターは、パタゴニア本社の3棟の建物のなかに設けられている。

 そのうち2歳未満の子供を預かる二つのクラスは、おもちゃやブロックやサークルベッドや魚の絵などが溢れる、明るい色の広い部屋を与えられている。二つの幼児クラスでは、子供たちがスペイン語のレッスンを受け、ピースウィークの催しとして、旗を作ったり、喧嘩をしないで仲良くすることの大事さをテーマに話し合ったりしている。広々とした遊び場にはすべり台や、ジャングルジムや、ブランコがあり、「カエルの子はカエル」を地で行くように、クライミングウォールやら、地上1、2メートルの高さに渡したロ一プにハーネスを取り付けて子供が滑空するスペーストロリーやらが備えられている。

 しかし、このセンターでは誕生したばかりの赤ちゃんの面倒は見きれない。これに対する対処もすごい。

 託児センターがオープンするとまもなく、産後まだ数日という母親たちが赤ん坊を預けに来るようになった。センターの従業員たちは、生まれたての赤ん坊を世話する設備がないと訴えた。そこでシュィナードは、赤ん坊は生後8週を過ぎるまではセンターに預けてはならないと通達を出した。ところが、数人の従業員から猛抗議を受ける。8週間も家にいなければならないとなると、その間給料が入らず、家族を養いローンを払うことができないというのだ。何人かが辞めると言いだした。

 妻の強い勧めもあり、シュイナードは8週間の有給産休を与えることに同意した。1980年代としては異例の措置だった。それからまもなく、父親にも、また養子を迎えた従業員にも、8週間の有給休暇を与えることになった。

「仕事をしている父親には、産休ってものすごい効果をもたらしますよ」
と、息子のゼインが生まれたときに1カ月休暇をとった、営業担当副社長のリッチ・ヒルは言う。
「人生でも一、二を争う特別な時間でしたね。1ヶ月仕事から離れているあいだ、みんながサポートしてくれる。それがすばらしいんてす。ほかの会社だったら、1ヶ月も離れていたら、それきりです。復帰はまず無理でしょう」

 パタゴニアにも、従業員にやさしい経営方針とあいまって、相互扶助の精神が息づいている。しかし、パタゴニアのオーナーの場合も特に社会主義的な思想があるわけではない。オーナーのシュイナードはパタゴニアの経営方針について次のように説明している。

「ま、たしかにいろいろやってはいるけれど、別に生まれてから死ぬまで面倒をみる社会主義のユートピアをここで実現しようというんじゃありません。どれもビジネスに有効なんですよ」

 どういう有効性かというと、パタゴニアの場合もその経営方針が「人材確保」と「教育費の節減」につながっている。

 もし有給の産休や社内託児施設がなかったら、従業員 ― 72%が女性 ― の多くが出産後に辞めてしまうかもしれないと、シュイナードは言う。

 労働問題の専門家は、辞めたホワイトカラー熟練社員の代わりに新しい人材を雇って教育するとなれば、1人当たり55000ドル(495万円)かかると見ているから、パタゴニアが託児センターに年間60万ドル(4500万円)の補助金を出しても、それは賢い投資なのだと。

 この補助のおかげで、パタゴニアの従業員は市場価格より23%安い託児費ですんでいる。

 パタゴニアは、フルタイムの従業員だけでなくパートタイムの従業員にも、医療保険の保険料を全碩負担している。これもビジネスとして意味があるのだとシュイナードは言う。パタゴニアが求めている熱血アウトドア派を惹きつけるからだ。山登りやサーフィンを愛し、その情熱を追求しながら、同時に会社の製品テストをし、それによって経験と熱意を消費者に伝えることのできるアウトドア派を、集めることができるというのだ。

 社会主義的な理念を持っているわけではないが、シュイナードには、今まで見てきたように、環境保護活動という高邁な志がある。

 シュイナードが自分の会社について語る言葉をほかのCEOが聞いたら、ほとんどが青くなることだろう。

 「実験ですね」とシユイナードは言う。パタゴニアの最大の目標は、利益を出すことではなく、環境保護活動を推進するための資金と方策を生み出すことだというのだ。

 パタゴニアのカタログを編集しているアリッサ・ファーミンは、会社の環境助成計画に従って2カ月間の有給休暇をとり、発展途上国の原野の保護活動をしている団体レアの研修を受けた。グァテマラやメキシコに渡り、欧米人向けのエコロジカルツア一をどううまく売り出すか、その方法を現地の人に教えてきた。

「パタゴニアがお金を出して、世界を変えたいという私の思いをサポートしてくれるなんて、すごいことだと思います」

 以上のような従業員や環境にやさしい経営がなぜ可能なのだろうか。シュィナード夫妻は、自分たちが所有する会社の株式を公開してしまったら、それはできないだろうと考えている。
「株式を公開したらいったいどうなるのか、詳しく調べてみました。公開していたら、うちの会社は死んだも同然の状態になっていたでしょうね。活力は失せてしまう。冒険はできない。経理担当者に言われるでしょう。そんなことをしても会社には何の得にもならない、他人の[株主の]お金をどうするつもりなのか、ってね」

 パタゴニアの環境助成金と環境保護計画を監督しているリサ・パイクも、シュイナードの慣習にとらわれないやり方は成功していると言い、シュイナードにエールを送っている。
「彼はウォールストリ一トが間違っていることを証明してみせています。正しいことをして、なおかつ非常に高い利益を生む会社を経営することは、可能なのです」

 株式を公開しないことがシュイナードの理想実現を保障しているという事実は、資本主義というシステムの限界と、資本主義に替わるシステムのあり方を示唆していると思う。
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