2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
企業経営の社会主義化(13)
<番外編>デンマークの労働組合


 「すくらむ」 というブログの11月8日の記事が、NPO法人POSSEが企画したシンポジウム「どう変わる? 新政権のセーフティネット」(10月18日開催)での竹信三恵子さん(朝日新聞編集委員)の講演の要旨をまとめている。その記事を紹介しよう。

 最近次のような主張をする無責任が論者がいるという。

『デンマークは「解雇の自由な国」「フレキシキュリティ政策を実施する国」である。解雇規制を自由化しているが、セーフティーネットをきちんと整備しているので問題がない。日本もデンマークに習って、正社員の解雇規制を取っ払って、解雇を自由化すべきだ。セーフティーネットを充実すれば問題ない。』

 しかし現在、日本の企業の解雇は、次に指摘されているように、恣意的でデタラメなのが現状だという。

 日本の解雇のひどいのは、グローバル化で逃げ足の速い企業が仕方なく整理解雇する ― つまり仕事がなくなって仕方なく整理解雇するということではまったくないということです。いま起きている解雇の多くは、パワハラ解雇など気に入らないからクビを切るというような、とにかくグローバル化なんだから何をしてもいいと言わんばかりの解雇が異常に多いのです。

 最近、私が実際に取材したケースでは、目が細いからという理由で解雇された正社員の女性が本当にいます。また、ジョークがおもしろくないという理由で解雇された男性正社員も実際にいます。そうした企業がまれにあるブラックな企業というわけでなく、普通の企業の中に続出しているのが日本の現状です。

 つまり現実の職場ではすでに企業側にとって解雇はほとんど自由になっているわけです。

 ヨーロッパ諸国には解雇規制法がきちんと存在しますが、そもそも日本には解雇規制法はありません。解雇を規制する法律も存在しない上に、日本の労働者は18%しか労働組合に入っていません。デンマークの87%とは天と地の差があるのです。日本には整理解雇の4要件がありますが、それが機能するのは実際のところ、それを背景に労働者を支援できる労働組合が存在したり、蛮勇をふるって裁判などに立ち上がることができる一部の労働者だけというのが日本のリアルな現実です。

 竹信さんは実際にデンマークを訪問し、デンマークでの解雇問題の実態を視察してくる。デンマークをお手本にする日本の解雇自由化論者の論拠が全くの誤解の上に成り立っていることが分かる。

 まず、デンマークにおける解雇は日本のようなデタラメなものでもないし、企業の人件費削減のための解雇でもない。それは産業構造の変動による「労働者の移動」である。従ってデンマークでは「解雇の自由化」ではなく、「雇用を柔軟化」と言うべきだろう。「食べられなくなった産業から食べていける産業へと労働者を移動していくために、解雇を比較的ゆるやかにして、労働組合と企業と国が協力しあっていくという仕組み」になっているのだ。

 ところが実際に、デンマークへ行ってみると、こうした日本における考え方とはまったく違う話だということが分かりました。

 たしかにデンマークの解雇規制はゆるくて、妊娠している女性以外は基本的に解雇していいとか、解雇理由も労働者に聞かれなければ開示しなくてもいいとか、一見すると驚くような話が出て来るのですが、じつはよくよく聞いてみると、労働者の解雇から再就職までのプロセスにおいて、労働組合がしっかり監視し、規制し、再就職支援をきちんと実施している事実があるということです。

 デンマークの労働組合の組織率はなんと87%です。どんな職場にも必ず労働組合があり、すべての労働者の周りには必ず労働組合員がいるのです。そもそも、労働者の人権を無視した経営側の一方的な解雇というのが原則として起こり得ない職場環境にあるのです。

 そういう日本社会とデンマークの社会は大きな違いがあるのです。デンマークのようにほぼ全員に近い労働者が労働組合に入っていて、労働組合が本当にこの人たちを解雇していいのかという相談に乗るところから出発して、企業の経営実態なども精査をして、本当にどうしようもなくて解雇しなければいけないとなるデンマークと日本とは大きな違いがあるのです。

 実際、今回のリーマンショックで、デンマークの大手企業でも大量の解雇がありました。しかし、そのときでも、一人ひとりの労働者が企業側から解雇通告を受けるときに、労働組合の人間が労働者が解雇通告を受ける部屋の外で待っていて、すぐに個々の労働者への支援をするのです。

 個々の労働者が解雇通告を受けて精神的なショックを受けていれば、ちゃんとカウンセラーを労働組合の責任で手配したり、公共職業紹介所から、労働組合が次の仕事のリストをもらってきて、個々の労働者にどの仕事をしたいか希望を聞き、そして次に移りたい企業と労働組合が交渉をして、その仕事に移るための職業訓練費を企業からも出させるのです。もちろん労働組合からもお金を出し支援します。

 私が取材した大手企業では、解雇された工場労働者が、次の仕事にバスの運転手を希望していました。バスの運転手を希望する労働者が数名いて、それでチームをつくって、解雇される企業の工場の敷地内でバスの運転手の講習をやって、解雇の期限が来るまでには、バスの運転手の訓練ができていて、次のバス会社で仕事ができるようになっているわけです。そこまで労働組合が、解雇された労働者を支援しているわけです。

 こうしたデンマークの実態を見ると、いま日本で言われている「解雇を自由にして、セーフティーネットを充実すればOK」などという簡単な話ではないことが分かるでしょう。

 労働者は、解雇され、仕事を失えば、生きていけません。しかし労働者には生存権があります。生存権から言えば、企業が安易に解雇できるということは原則的にはありえないわけです。

 しかしながら、産業の消長があまりに激しい今の時代に入って、どうしても産業が衰退し、仕事が無くなってしまうケースは以前よりは多くなっているとはいえるでしょう。そうしたときに、デンマークは、解雇の規制がゆるくても、労働組合がきちんと規制しながら、労働者の次の新しい仕事への移行まで、労働者をサポートするということを行っているわけです。デンマークでは、そういう形で、産業の構造転換に対応しているわけです。

 ですから、デンマークにおける「解雇の自由」「フレキシキュリティ政策」というのは、企業の人件費削減のためにやっているわけではくて、産業構造の変動による労働者の移動をなるべく被害が少ないように、雇用を柔軟化させていく、食べられなくなった産業から食べていける産業へと労働者を移動していくために、解雇を比較的ゆるやかにして、労働組合と企業と国が協力しあっていくという仕組みです。

 いま日本で、「とにかく解雇規制を無くして、失業手当を少し厚くすればOK」などと主張している人は、デンマークなどの現実がまったく分かっていらっしゃらない方だと私は思います。労働者の生存権を守っていく主体である労働組合が87%の組織率を持つデンマーク社会と、労働組合の組織率が18%しかなく力関係で圧倒的に企業側が優位に立つ日本社会で、これ以上、労働者の解雇規制を自由にすると、労働者の生存権が守られず、自殺者年間3万人どころか餓死者が多発するようなことにもなりかねないと思います。

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