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2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
企業経営の社会主義化(12)
ラスヴェガスのカジノホテルの場合(3)


 カジノホテルの経営側と労働組合キュリナリーが協同して築いてきた組合員(従業員)への福利厚生事業を列挙してみよう。

キュリナリーの医療保険
 組合員の保険料負担はない。ただし組合員は、処方箋、受診、通院の費用の一部負担金として、年間数百ドル(数千円弱)を支払う。また歯科医療も、組合員の基本検診と詰め物は通常無料で、もっと複雑な治療にのみ10ドル(900円)から40ドル(3600円)を支払う。組合未加盟のホテルの従業員の場合、200ドル(18000円)以上かかることも少なくない。

労働形態
 キュリナリーの労働協約により、清掃員の監督は週40時間の勤務が保証されている。
 ほかの都市では、週25時間から30時間しか勤務の割当がないところが多いし、多くのホテルが従業員をパートタイムで雇って、福利厚生の手当をしない。また、勤務のスケジュ一ルにゆとりを持たせて、客が多いときに就労時間を増やしても週40時間を超えることがなく、したがって通常の5割増しの賃金も支払う必要がないようにしようとしている。

賃金の例
 組合に加入しているラスヴェガズの清掃員監督は、週給548ドル(約50000円)、年収だと29000ドル(260万円)がふつう。
 ほかの都市の組合に入っていない清掃員監督はその5分の3以下で平均年収16000ドル(144万円)。これは貧困ラィンをはるかに下る低賃金である。

研修制度
 前回紹介したトレーニングアカデミーは、キュリナリーの組合員ならすべての科目を無料で履修できるのすることができるが、その経費はどうまかなっているのか。
 アカデミーの年間予算は300万ドル(27000万円)。これは組合加盟のホテル二十数社の拠出金(組合員の勤務1時間につき3.5セントを拠出)と、州や国の教育補助金でまかなわれている。失業中の労働者も無料で学ぶことができる。キュリナリ一の財務担当書記D・ティラーは次のように語っている。
「組合の目標も、トレ一二ングアカデミーの目標も同じです。英語がしゃべれない労働者でも、厨房で働く下級労働者でも入ることができて、本人が望めば、グルメの給仕にも、副料理長やマスターソムリエにもなれるというのが目標なんです。すべては本人の野心次第、という状況をつくりたいですね」

 さて最後に、グラシエラ夫妻のその後を追ってラスヴェガスからお別れしよう。
 野心に燃えるグラシエラは、ラ・サルサのウェイタ一助手として働きはじめてから3年後に、アカデミーでウェイトレスになるための科目を受講し始めた。彼女の休日である水曜と木曜に、ウェイトレスを目指す1日6時間のコースをとった。

「もっと上に行きたかった。家族がもっと豊かになれるように。家族にはどんな不自由もさせたくないです」

 グラシエラは5カ月間、給仕の仕事について研修を受けた。研修は、ショートスタックとはパンケ一キ何校のことかとか、パフタのフェットナーネとファルファッレの違いは何かとか、細かいことにまで及ぶ。

 ある水曜の午後、グラシエラと8人の生徒仲間 ― 皿洗い、ホテルのメィド、ウェイター助手、失業者などさまざまな職種の人たち ― が、7台のテーブルが据えられた食堂兼教室に座っていた。生徒の出身地も、ロシア、ボスニア、タイ、フィリピン、メキシコ、それにモンタナ州と、実にさまざまだった。
 講師のナタリー・ロドリゲスが、強い緊張を強いられるような状況で客のオーダーをとる模擬演技をして見せた。機関銃のような早口で、本日のスペシャル料理と添え料理、さらにどんなサラダドレッシングの用意があるかをまくしたてる。それから、今度は自分が客になって生徒一人一人にオーダーし、数分後には何をオーダーしたか確認していく。
 英語の覚束ない一人の生徒が「フレンチフライ」でつまずいて、失敗した。突然、講師がグラシエラのほうを振り向き、本日のスペシャルを三種言ってみなさいと言った。黒いパンツに黒いエプロン姿のグラシエラは、一瞬ためらったのち、すぐに立ち直って小さな声で答えた。
「チキンヴェズヴィオと、バーベキューチキンと、シーフードサラダです」
 講師はそのとおりとうれしそうだったが、
「グラシエラ、もっと大きな声を出さなきゃだめ」
と注意した。

 アカデミーのコースが終了するとすぐ、グラシエラはラ・サルサのウェイトレスに昇進した。メキシコ大歌手の低い歌声が流れる、この黄褐色を基調としたレストランで、グラシエラは今6つのテーブルを担当している。多少おずおずした英語ながら、満面の笑みで客を迎え、自分の好きなファヒータサラダを勧めたりしている。ラ・サルサの看板には、マルガリータを巨大なビール用フラスコのヤードオブエールで出すと誇らしげに書いてある。グラシエラも、このレストランのトレードマークの飲み物を勧めなければと思っている。

 グラシエラの仕事は順調で、夫のマヌエルも冗談めかして友達に言うほどだ。
「グラシエラの稼ぎがいいから、そのうちこっちは仕事を辞めて、家事に専念するかな。大黒柱様が帰ってきたときには、テ一ブルで料理が湯気を上げて待ってるようにさ」

 そう言う夫マヌエルの仕事の方はどうなっただろうか。

 マヌエルは、ベラジオの建設作業に携わったあと、初めのうちは重い建設用資材を運ぶ重労働に従事していた。腕や胸の筋肉の盛り上がりが、どれほどの肉体労働だったかを物語っている。

 その後、スティーヴ・ウィンの夢のプロジェクトに加わることになった。ベラジオをしのぐ豪華絢爛なカジノホテル、ウィンラスヴェガスの建設である。そこでは肉体より頭を使った。鉛管工や電気技師がパイプやワイヤーを埋設するための土地を、選別する作業だった。時給は23ドル66セント(約2130円)、時間外手当も含め、総収入が6万ドル(540万円)を超える年もある。

「メキシコにいるころの20倍くらいもらってます」
とマスエルは言った。成功した移民であることに、いささか後ろめたさを覚えているような口ぶりだった。

「僕らは誰も羨んだりしない。せっかくこっちで生まれても、与えられたチャンスのありがたみを知らないから、努力しない人がほんとに多い。なにしろ、国境を越えるとか、僕らが耐えなくちゃならなかった苦労なんて、初めからないんだから」

 その後(2002年)、グラシエラとマヌエルは215000ドル(1935万円)をはたいて、ダウンタウンの北十数キロの砂漠に建設されたサダークリ一クというゲーテッドコミュニティにマイホームを取得した。愛娘セシリアは8歳になっている。愛娘の成長とその将来を期待しながら、生き生きと働きかつ生活を楽しんでいる。
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