2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
今日の話題

「腐れ文学者」の本質


 前回に続いて『情況・倒錯の論理』を読み続けます。しかし、吉本さんの論考は「日大闘争」そのものからは離れるテーマになっていきます。そのテーマに私は別の問題に関連した事柄として関心があるので、「今日の話題」として記録することにしました。

 さて吉本さんはさらに、『教えの庭』の「二十年」という作品の一節と、『さらば日本大学』の一節を引用している。

 「二十年」からの引用。

 しかしまた、そんなこと(研究室員の不行跡-註)でやめるのはあまりに子供くさいように思った。それに、そのころの私は、原稿の注文というと、短篇を書けという口が年に一度、あるかないかという有様なのに、妻の方は一種の流行作家になっていたから、私は時には、どうかすると崩れそうになる自尊心を支えるためには、大学の助教授という肩書きさえも自分自身にむかつて利用しようとする瞬間があった。大学をやめた私は一体何だろうと考えると、辞職すること自体が一つの思い上りであるように感じられた。



 『さらば日本大学』からの引用。

 どんなことになっても、男には出世欲のようなものがある。役職についたり、えらそうな立場につきたくない、という人がいたら、それは嘘をいっているのだ。たゞ、そういう地位に伴う負担、責任、そういうものをわずらわしく思う気持もある。要は満足感と負担とどちらが大きいか、ということだ。紛争大学の学長という仕事は、負担の方が大きいから、なかなか成り手がないが、教職員学生が一体となって、何かを成しとげようとしている大学の学長なら、なつてもよいと思う人が多いであろう。(「芸術学部の執行部」)



 これらの引用文から吉本さんは、「三浦朱門に固有なものではなく、いわゆる第三の新人とかってよばれた、そしていまではなにやら中堅大家のような口ぶりをしだしたほぼ同年代の作家に、共通に」見られる特質を摘出している。

 流行作家になった妻にたいして、いっこう流行しない作家である夫が、それでもおれは大学の助教授なんだとじぶんにいいきかせて、妻にはりあう自尊心の支えにしようとする瞬間があったとかくのも、どんなときも男には出世欲があって、おれにはそんなものはないという人間は嘘をついているのだというのも、人間性の解釈についての凄まじい自信であるとおもえる。わたしにはとうていそんなことを自分に言いきかせたり、他人に断定したりする自信はない。

 それは当然である。人間性の複雑さ、奇怪さは、それ自体でも底知れない淵をのぞかせて限りがないという認識は、ほかの何者にも不要であるかもしれないが、文学者にとっては前提にしかすぎないからだ。ならばこの凄まじい断定は、そのまま凄まじい自信と解するほかに術がない。わたしはここで、戦後第三番目に登場した作家たちにたいするかねてからの疑問は、案外こんなところにあるのではないかとふと 感じた。



 吉本さんは続いて吉行淳之介や安岡章太郎の作品を取り上げ、そこに「不可解な自信のようなものがちらばっている」ことを確認して、「わたしには、これらの作家たちは、これから〈人間〉がはじまるのだといったところで、〈人間〉にたいする省察を終えてしまっているようにみえる。」とまとめている。

 さて、私が関心をもっていた「別の問題に関連した事柄」を書きとめておこう。

 私は以前に、三浦朱門と石原慎太郎に対して「腐れ文学者」という悪態をついたことがある。(下記の記事を参照してください。)

『抑圧者の正体』

『「君が代日の丸」が「考えるな、服従せよ」と恫喝する』

『石原による都政の私物化』

 それぞれに都知事(石原)や教育課程審議会会長(三浦)に成り下がったこの二人の「文学者」の言動から、この二人には文学者としての共通の欠陥、ある種の資質上の欠如があるのではないかと思っていた。それがどのような「資質上の欠如」なのか、私には言い当てる言葉がなかったので、とりあえず地に落ちた文学者というような意味で「腐れ文学者」という悪態で表現した。

 吉本さんの評論を読んでいて、それがどのような「資質上の欠如」なのか分かったと思った。石原は第三の新人には分類されないようだが、同世代ではあり、その「資質上の欠如」は同じだと思う。彼らは「〈人間〉がはじまるのだといったところで、〈人間〉にたいする省察を終えてしまっている」のだ。これはいわば文学の放棄である。人間への深い省察を欠くにもかかわらず、その皮相な人間理解に「凄まじい自信」を持っている。これが、彼らの他者への不寛容や弱者への無理解・無神経の拠ってくる根源なのだと、納得した。

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