2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
『続・大日本帝国の痼疾』(92)

自由民権運動(46)―加波山事件(2)


 福島・栃木グループのリーダー格だった鯉沼九八郎について、色川さんは「この鯉沼という人物を爆弾闘争の過激派壮士と見ることはあたっていない」と言う。その論拠は次のようである。

 彼は村落に根をおろしていた名望家で、野島幾太郎の『加波山事件』(1900年)によると、全国的に運動が退潮した1883年(明治16)だけでも、3月、6月、8月に三回も野外の決起集会ともいえる運動会を開催して、百余名、六百余名、一千余名という民衆を動員することに成功している。

 とくに第三回、8月17日に鯉沼ッ原でひらかれた運動会では、元禄(げんろく)時代に百姓惣代(そうだい)として戦って斬首された三人の農民指導者の弔魂(ちょうこん)祭を行ない、鯉沼はその祭主として堂々たる祭文(さいもん)を読みあげ、その場から警官に連行されている。いま、その祭文をみると、惣代八幡(そうだいはちまん)に祭られた三人を「昔日(せきじつ)の民権家」とよび、

「今日の民権家たる者、深く諸君の行為に感奮せざるべけんや。いささか弔魂の微意を表し、あはせて今日民権を唱ふるの士を奨励(しょうれい)す」

と結んでいる。こうした土着の民権家が、なぜ民衆から離れて、少数壮士による暗殺→挙兵の道に走ったかが問題なのである。



 加波山蹶起の時の檄文によれば、彼らは「志士仁人たるの本分」をみずからの行動の指針としていた。この檄文をめぐって、色川さんは次のような見解を吐露している。方法・手段の可否はともあれ、身命をかえりみず自由民権運動に身を投じた人たちへの色川さんの暖かい眼差しは、教科書Aに一貫して注がれている。

 これを志士仁人意識にとらわれていた急進分子の自己陶酔であるとか、捨て石精神だと批評することはたやすい。あるいは彼らのほとんどが士族出身で、その地域の民衆に深い根をおろしていなかった故の、はね上がりだと評することもたやすい。

 しかし、当時の状況を精密に復元し、その中で富松らがたどった足跡を冷静に検討してみるなら、そうした頭ごなしの批判は酷であろう。当時の権力の弾圧は非道、残酷、横暴をきわめたものであったし、それに対する富松や河野らには抵抗権、革命権の実践だという信念があったと思われるからである。また、急進派の関東一斉蜂起へのロマンもあったであろう。

 下館士族で、教員の経験もあり、地方の有数の知識人でもあった37歳の富松正安が、すでに1883年(明治16)の未に、大井憲太郎を案内して古河(こが)、下妻(しもつま)、潮来(いたこ)などを遊説したとき、「血雨(けつう)を注ぎて専制政府を倒すの捷径(しょうけい)たるを知れ」と演説しているが、その背後にはすでに戦う姿勢をなくしていた自由党指導部への大きな幻滅があったとみられる。

 だが彼には革命化していた農民との同志的結合を求めようとする行動はなかった。挙兵主義を掲げながら、その主体勢力を見出しかねていた。現地の研究者の調査では周辺農民との共闘の可能性がいくつかあらわれていたというのに、それと積極的に結びつこうとする強靭な思想に欠けていた。次のエピソードが、このグループの一つの性格を浮き彫りにしている。

 1884年(明治17)8月10日、八王子南方の御殿峠に「窮民一万」が蜂起したというしらせが入ったとき、東京の自由党文武道場有一(ゆういつ)館にいあわせた加波山グループの小林篤大郎(とくたろう)・五十川(いかがわ)元吉・平尾八十吉(やそきち)の三人は、「好機乗ずべし」と多摩に急行した。だが、かれらはそこでこの蜂起がたんなる農民騒擾(そうじょう)にすぎないことを見て、「此等の徒、皆な事理(じり)を解せず、主義を持(じ)せず」と絶望して帰ってきたという。

 しかし、このとき御殿峠に蹶起した人民のすべてが、「事理を解せず、主義を持」たない愚民であったか。それどころか、内に「抵抗権」の思想を秘め、戦闘力にみちた集団を中核にしていたということを、わたくしはこの事件を精査して知った。結局、加波山の志士たちは孤立し、処刑されたが、その三年後に『常総之(じょうそうの)青年』から批判されることになる。彼らは勇敢であったが、「一般人民は…寧(むし)ろ彼らを厭(いと)ふこと維新前の浮浪を視るが如き」であったと。この断絶は百年後の今なおくりかえされている暗い悲劇ではあるまいか。



スポンサーサイト
 コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
 トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://adat.blog3.fc2.com/tb.php/1072-3d5e3409
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック