2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。

『続・大日本帝国の痼疾』(69)

自由民権運動(23)―明治14年の政変




 この時に方って久しく沈黙したる武官谷干城(たに  たてき)、曾我祐準(そが すけのり)ら相率いて書を政社に呈し、当時の失政を陳じ速やかに議院政治を設くべきを論ずるや、満朝震驚、十月天子東京に帰るや、直ちに開拓使官有物払下を中止し、更らに二十三年を以て国会を開設するの詔勅を発す。これ実に十四年十月十二日なり。而して武官政論を為すを得ざるの法令らまたこの時に出ず。



 開拓使の官有物払い下げに対して軍人たちまでが非を鳴らし国会開設を主張するにいたって、伊藤、岩倉らは一旦黙認した官有物払い下げを中止し、国会開設を約束する詔勅を発して難局の収拾をはかったのである。教科書Aには、この収拾策は井上毅(こわし)の献策によるとある。その献策の最終目標は大隈追い落としであっただろう。彼らは大隈重信を失脚させ、政府の実権を握るに至る。この政変による伊藤と井上の二人三脚内閣を、竹越は藤井内閣と呼んでいる。

 この詔勅の出ると同日に、廟堂内の国会論者大隈は失墜して民間の人となれり。彼は国会を以て内閣中の異分子に対して政治的追放クーデターを試みんと欲して、かえって追放せられたるなり。

 薩長は久しく和し、久しく争えり。今や大隈の一撃によりて相驚駭(きょうがい)し、ここに堅固なる結合をなし、頻(しき)りに自由民権の分子を追放せり。ここに於てか農商務卿河野敏鎌(とがま)以下、大隈の党与悉く退けられ、政府は漸進主義なるものによりて立つの形跡を来したれば、朝野の関係一変す。而してこれと同時に大隈の 考案に成りし各省内閣の分離制を廃して、また参議と卿との兼職を回復し、これと同時に参事院なるものを作りて各省と同一の地位に立たしめ、文武の法律を制定するの時となし、各省の才人俊吏を集めて議官となし、以て全政府の権力をここに集め、殆んど総理府と小国会の勢を為せり。

 而して大隈の打撃者伊藤博文自らその議長となりしかば、伊藤の声望権勢一朝にして隆起し、彼は内より法律制定の権を以て政府を総攬し、彼の党与井上馨は外務卿の要地に立ち、条約改正の大事を以て外より政府の権を分領し、藤、井同盟の力は、能く政府の咽喉を扼(やく)したれは、外よりいえば薩長の権衡及連合ここに初(はじま)り、内よりいえば藤井政府ここに生じたり。



 下野した大隈重信は、当然、民権運動の渦中へと身を投じた。教科書Bの記述を読み進めよう。

 藤井内閣已に成る、ここに於てか大隈の挙動は天下の注目する所となれり。

 彼は江藤新平のごとく叛すべきか、島津久光のごとく退隠すべきか、彼(かの)政府攻撃の気焔に鞭(むちう)って大運動を試みんか、黒田清隆はこれに向って、西郷のごとく速に反すべしと罵れり。

然れども彼は江藤のごとく謀反するの勇気もなきなり。兵力に訴うるほどの無謀漢にあらざるなり。彼は純然たる治世の能臣にして、平和の手段にあらずんば、平和の目的を達すべからずと信ずる者なり。ここに於てか十有余年、明治政府の鉄壁中に籠りたる人物は忽(たちま)ちにしてその長剣大冠を付て、人民中に飛出で、宴会に、交際会に、文学会に、自ら求めて世人と交れり。

 この時に方って民間党は久しく首領に渇せり。かつて明治維新の大運動に参じたる元老は、悉くその権勢、名望の尾を引きて政府に籠城せり。唯(ひと)り民間党中にあるものは板垣退助のみ。後藤象二郎ありといえども、彼れ今や長崎の地に石炭鉱の主人となり、損徳の算用に忙(せ)わしくして、政変を見ること雲烟の眼を過ぐるがごとくなり。されば政府中の大立物にして、幾多の才俊を門下に養える大隈が、民間党中に入るや、民間党は双手を開きてこれを歓迎せり。



 不祥事にもかかわらず政府内に延命した黒田清隆は官有物払い下げの頓挫がよほど腹に据えかねていたのだろうか、大隈を罵り、自滅の道をけしかけている。まさに「盗人猛々し」だね。

 余談を一つ。
 この黒田は後に首相・枢密顧問官・枢密院議長にまでなっているが、何かと問題がある人物である。酒乱であり、酒に酔って妻を殺したという噂が立ち、当時は大騒ぎになったという。明治政府も知らんふりが出来ないほどの騒ぎになり、一応調査をする。当然政府の公式発表は事実無根。しかし一般には、黒田の妻殺しは結構信じられていたという。司馬遼太郎は黒田を全く評価していない。明治天皇も黒田を嫌っていたと言われている。

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