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2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
永遠の不服従のために(51)

糞バエ(2)

 政府が垂れ流す情報を検証抜きでそのまま垂れ流す糞バエの脅威を煽る情報を、疑わない圧倒的多数のお目出度い国民が根拠のない脅威論を共有してしまう。その一例として「中国脅威論」を今年の1月に取り上げている。『中国脅威論の信憑性』である。その中の『「尖閣紛争」の検討』は主として岡田充さんの『海峡両岸論 第70号』を用いて論述している。その岡田さんがこの8月11日に『海峡両岸論 第81号』(表題 偶発事件をこじらせた処理:全ては中国漁船衝突に始まる。)を発表していた。「第81号」は「第70号」以後の政治状況を俯瞰しながら「尖閣紛争」問題をまとめ直している。この論説でも糞バエの影響が取り上げられている。今回はこれを読むことにする(1部省略して転載します)。


 尖閣諸島(中国名:釣魚島)3島の「国有化」から9月で丸5年。領土問題は日中関係のトゲとなり国交正常化以来、最悪の状況が続いてきた。ここにきて「一帯一路」構想への協力を糸口に、ようやく改善に向け双方の呼吸が合い始めた。しかし日本人の中国への印象は「良くない」(「どちらかと言えば」を含む)がここ数年、9割を超える。「言論NPO」世論調査によると、その理由は「日本領海を侵犯」(64%)・「国際社会での強引な姿勢」(51%)が1,2位を占めた。安倍政権は、国民に浸透した「中国脅威論」を追い風に、集団的自衛権の行使を認める安保法制を急ぎ、改憲への道筋まで描く。軍事予算を毎年二けた増やして空母を保有、尖閣諸島の領海を侵犯する―。こうしたニュースに毎日接すれば「脅威感」はいやでも増幅する。隣国への感情や認識を形成するベースは、メディア報道であろう。我々が抱く「脅威感」は本当に実相を反映しているのか。

「軍事侵攻リアルに感じた」

 ネットメディア「ビジネスインサイダー」にこの5月、日本の「柔らかなナショナリズム」に関する文章を書いたところ、一読者がツイッターで次のように書いた。
「日本人が良くも悪くもナショナリズムを意識し始めたのは、2010年から。中国船が、尖閣諸島で海上保安庁に対し体当りの攻撃をしかけ、その映像が流出したことがきっかけ。中国からの軍事侵攻をリアルに感じたとき、国防に意識が行くのは当然だろう」。
 この読者のように「軍事侵攻をリアルに感じた」人が多かったかどうかは分からない。しかし「中国に親しみを感じる」が、内閣府の世論調査でも、38%から20%まで急落したことを考えると、「中国脅威論」を議論する上で事件と報道の検証は不可欠だろう。この事件がなければ、おそらく2012年の「国有化」もなかったし、日中関係が国交正常化以来最悪の状態に陥ることもなかったはずだ。

 一読者さんは「中国船が、尖閣諸島で海上保安庁に対し体当りの攻撃をしかけた」ことを鵜呑みにしているが、実際はどうだったのだろうか。


 結論から言うなら、事件は泥酔船長による暴走という偶発事件だった。筆者は複数の日本政府関係者から確認したが、政府も最初から偶発事件という認識を持っていた。にもかかわらず、それを公表しなかった結果、「漁船はスパイ船」などの誤報が独り歩きし「中国は尖閣を奪おうとしている」という脅威論が広がっていく。

 漁船衝突事件が発生した9月7日から、船長釈放(24日)に至る過程を振り返る。主として共同通信の報道を基にした。
 海上保安庁の発表によると、尖閣諸島久場島の領海付近で、巡視船「よなくに」が中国福建省のトロール漁船「?(環境依存文字)晋漁5179」を発見したのは同日午前10時ごろ。退去を命令すると、「よなくに」の船尾に接触し逃走。さらに巡視船「みずき」が停船命令を出したが、無視して逃げ続け11時前「みずき」の右舷に体当りした。巡視船が日本の排他的経済水域(EEZ)内で漁船を停船させ、船長と船員を拘束したのは午後1時前。船長を刑法の公務執行妨害の逮捕状を執行したのは、翌8日の午前2時過ぎ。拘束から13時間後だった。

中国の強硬対応

 外務省アジア大洋州局長は8日、程永華中国大使に電話で抗議した。石垣簡裁は10日、船長の10日間の拘置延長を認めた。これに対し中国の楊潔?外交部長は丹羽宇一郎大使を呼び、船長釈放と漁船返還を要求し抗議。中国は11日、東シナ海ガス田の条約締結交渉延期を発表した。18日は満州事変(柳条湖事件)79周年にあたり、北京、上海で抗議デモが行われた。那覇地検が19日、船長の10日間の拘置再延長を決定すると、中国外交部は「強烈な対抗措置」として
① 閣僚級以上の交流と航空機増便交渉の停止
② 石炭関係会議の延期
③ 民間のイベント中止・延期
を発表した。温家宝首相は21日、ニューヨークで日本の対応次第で「さらなる行動」と警告、23日には中国から日本へのレアアース(希土類)輸出停滞が発覚した。河北省石家荘で軍事管理区域に侵入したとして、建設会社「フジタ」の日本人社員ら4人が拘束されたことが判明した。

 ここで論点を絞ろう。
(1)
 船長の逮捕・送検という処理は、外交の「前例」を踏襲したのかどうか。中国側が日本の対応に意外感を抱き、強硬な対抗措置を引き出したのではないか
(2)
 漁船の体当りは意図的かそれとも偶発的か
の2点である。

前例無視の司法処理

 船長逮捕・送検については、当時の民主党、菅直人政権内に当初から「戸惑い」があった。7日、処理を話し合うため夕と夜の2回、国土、外務、法務など関係省庁会議が開かれた。前原誠司・国土交通相は「悪質。(逮捕の)意見を海上保安庁に伝えた」と述べる。当時ベルリン出張中の岡田克也外相は、「わが国の領海内の出来事。法に基づいて粛々と対応していく」と説明した。「毎日新聞」によれば、岡田は民主党幹事長就任後の9月29日、事件を振り返って「当初この問題が起きた時、私も小泉政権の時のやり方が頭の中に浮かんだ」と述べた。

 小泉のやり方とは何か。2004年3月24日、尖閣諸島に上陸した7人の中国人活動家を日本側が「入管難民法」で拘束した処理のことである。7人を送検せず、2日後に中国に強制送還した。小泉純一郎首相は釈放時の記者会見で「日中関係に悪影響を与えないように大局的に判断した」と述べ、送還が「政治判断」だったことを率直に認めるのである。

 岡田は「事を荒立てないなら、そういうやり方もあっただろう」と、「毎日」に語っている。また仙谷官房長官も7日夜の関係省庁協議でビデオを見た後「発生場所は中国が領有権を主張する尖閣諸島周辺。『逮捕するのか。日中関係に影響が出るなあ』とも漏らした」(共同通信)という。公務執行妨害による逮捕に対し、岡田が(強制送還という)やり方もあったと語ったことは、外交「前例」を認識していたことの傍証である。

 「共同」は04年事件の際、「政府は数年前に魚釣島に中国人が上陸したケースを想定し『対処マニュアル』を作成。マニュアルには原則として、刑事手続きに乗せずに速やかに強制送還する、つまり起訴しないという趣旨の内容が書かれているという」と報じた。
 事件が起きたのは、菅と小沢一郎による民主党代表選挙の最中だった。14日は民主党代表選挙で菅が勝利、17日に内閣改造が行われた。菅をはじめ民主党首脳は連日、選挙運動に追われていた。特に19日の拘留延長という節目に、菅内閣が対中関係を配慮した政治判断をきちんとしたかどうかは疑わしい。これが日中双方の不信感を増幅し、ねじれを決定的にしたのだと思う。当時の政府高官は
「あの時は、海上保安庁が存在を誇示しようとしているように感じた」
と証言していた。海保の“点数稼ぎ”が背景にあるともとれる発言である。

(次回に続く。)
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