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ミニ経済学史(30)

現在の経済学は?(9):リフレ策は本当に有効なのか(3)


 生半可な知識での妄言と失笑を受けるかも知れないが、もうすこし自問自答を続けよう。

疑問3
 ケインズが言う流動性選好には「予備的動機」と「投機的動機」という分類があった。(「ケインジアンの時代(4)」を参照してください。)この分類に従って「疑問2」に対する私なりの答をまとめると次のようになろうか。「予備的動機」による流動性選好は経済動向にはほとんど関与していないし、またいわゆる「金持ち」とはほど遠いほとんどの「人々」には「投機的動機」は無縁である。

 しかし、流動性選好には「ただ単にできるだけ沢山の金を所持したい」という動機もあるのではないか。例えば、松尾匡さんの『「はだかの王様」の経済学』という本を読んでいたら、「貧窮の大金持ち」という極端な例が載せられていた。
『私もずいぶん昔どこかの新聞で読んだ記憶があるのですが、安アパートにひとり暮らしの老人がいて、いつも貧しい食事で貧相なみなりをしている。それが寝ついちゃって、近所の奥さんたちが見かねて世話をしてたんだけど、結局かわいそうに、亡くなっちゃった。仕方がないから世話をしていた奥さんたちが残された部屋の片づけをしてたら、押し入れの奥から通帳を見つけて、開いてみたらびっくりぎょうてん。巨額の預金をため込んでいた。身寄りもないので全部市の収人になっちゃったっていうお話。』

 松尾さんは上の例のような「カネの亡者」はエゴイストではないという。

『おカネの亡者というのは、自分の利益ばかり追求するエゴイストじゃないのですね。エゴイストならばおいしいものを食べたりして自分のためにおカネを使います。それに対して、おカネの亡者は思い込みのために自分の身を犠牲にします。つまり一種の宗教です。「拝金教」ですね。マルクスは『資本論』の中でこれを指して「物神崇拝」と言いました。』

 他人に不利益を押しつけてその分を自分の利益としている人をエゴイストと呼ぶなら、「貧窮の大金持ち」さんは確かにエゴイストではない。その意味では自分の贅沢のためにお金を使う人だってエゴイストではない。「貧窮の大金持ち」さんの流動性選好の動機は「拝金教的動機」と呼べようか。では次のような例はどうだろうか。次は「貧富の差 悪化」を告げる東京新聞(1月21日付夕刊)の記事である。

 国際非政府組織(NGO)オックスファムは20日、世界で貧富の差が拡大し、最富裕層85人の資産総額が下層の35億人分(世界人口の半分)に相当するほど悪化したとの報告書を発表、22日からの世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)を前に、累進課税などの対策に取り組むよう政財界の指導者らに呼び掛けた。

 報告書は、人口の1%を占める最富裕層が世界の富の半分を握っていると分析。データを得た26ヵ国のうち日本を含む24ヵ国で、全国民の収入に占める上位1%の最富裕層の割合が約30年前に比べて増加したと指摘した。

 リーマン・ショックに見舞われた米国では、下層の90%は経済的に苦しくなったが、上位1%の最富裕層は危機後の2009~12年の成長による利益の95%をかき集めたという。

 オックスファムは格差を是正するため、累進課税のほか、租税回避の中止や、従業員の生活賃金の確保、持続可能で公平な成長に向けた市場の規制強化などを訴えた。

 世界を牛耳るほどの厖大な資産を抱え込んでいながら、さらに増やそうと血道を上げている「カネの亡者」たちがたくさんいる。この亡者たちの止まるところを知らない流動性選好の動機は「拝金教的動機」ではなく、「征服欲的動機」あるいは「利己的強欲的動機」としか言いいようがない。このような動機による流動性選好は個人とは限らない。大企業という組織にもそのような流動性選好がある。

 さて、リフレ策の最終目標は「雇用回復と賃金上昇」であり、それが達成されて初めて個人消費が上昇してメデタシメデタシとなるはずだった。では、過去のリフレ策がどれも「雇用回復と賃金上昇」に至らなかったのは何故か? リフレ策が正しい理論だと言うのなら、その理論を破綻させる不都合な何かがあったのに違いない。

 その不都合とは、ズバリ、大企業の内部留保だ。本質的には内部留保は「予備的・投機的動機」による流動性選好の例と言えると思うが、その限りでは問題はない。しかしその中には宿痾となっている「利己的強欲的動機」による「留保」がかなり含まれていると思われる。つまり、本来「雇用回復と賃金上昇」に使われるべき利潤が「留保」されているのだ。ウィキペディアによると内部留保を「雇用維持・創出」に活用する議論が起きているという。その部分を引用する。

 2007年の米国金融危機(世界金融危機)とそれに伴う世界経済の急激な後退に際して、日本の大企業は非正規労働者の大規模な解雇・契約解除で対応した。このような情勢下、大企業の内部留保を原資とする資産の一部を、非正規・正規労働者の雇用維持・創出に活用することを検討する議論が起きた。以下、そのような意味での内部留保の雇用への活用について、世界金融危機当時の肯定的、否定的意見を併記する。

肯定的意見
(1)
 製造業の大企業(資本金10億円以上)の内部留保1%程度で、失業が予測されている非正規労働者約40万人を1年間雇用できる。
(2)
 1997年から2007年にかけて、製造業の有形固定資産は減少したが、「投資有価証券」は倍増している。新規投資は設備投資を金融資産が上回っており、設備投資に悪影響は出ない。
(3)
 現金・預金(手元資金)だけではなく、有価証券、公社債、自己株式などを含めた「換金性資産」あるいは流動性の高い金融資産を活用できる。
(4)
 内部留保は雇用危機を回避するためにも使うべきである。

否定的意見
(1)
 内部留保の多くは設備投資されており、現金(および現金同等物)が積み立てられている訳ではない。生産設備や棚卸資産などは換金が難しい。
(2)
 生産設備を売却し現金にできても、そこで働く従業員を解雇しなければならず、逆に雇用を不安定にさせる。
(3)
 企業の「現金および現金同等物」(手元資金)は少なく、これを使うと資金繰りに行き詰まる企業もでる。
(4)
 内部留保(狭義)は最終的には株主の持分である。利益準備金は法律で用途が制限されており、任意積立金も目的外の社外流出の際には株主総会の承認がいる。よって直接的に内部留保を取り崩し、雇用に活用するのは難しい。

 肯定的意見が手元資金と換金性資産などの「余裕資産としての内部留保」の活用を論じているのに対して、否定的意見の方は生産設備・棚卸資産・狭義の内部留保などなどを持ち出して議論を混乱させている。肯定的意見と同じ土俵での意見では手元資金も換金性資産も雇用や賃上げにまわすほどの余裕はないと言っている。どちらが正しいかは手元資金や換金性資産の多少に懸かっている。その観点から確かな資料を用いてさまざまな試算をしている論文が「すくらむ」という国家公務員一般労働組合のブログにあった。「内部留保わずか1%の活用で81社が1千人以上の雇用増可能-1年で5兆円も増加した内部留保の活用を」から要点を取り出しておこう。

資本金10億円以上の大企業(2009年度統計では5806社)対象の
1997年~2012年の累積留保額
 142兆円→272兆円(130兆円増)


 1997年は4月の消費税率引き上げを機に景気がさらに後退し不況が長期化した年である(2002年~2006年のイザナミ景気を含んでいる)。そうした長期不況にも関わらず内部留保は年間平均約8兆円も増加している。ちなみに、この期間の
民間労働者の年間平均賃金は
467.3万円→408万円(59.3万円減)だった。

 さらに下の図(教科書⑥より転載)が示すように、2001年~2002年で正社員数と非正社員数が逆転している。内部留保が何を犠牲にして増加したのか、明らかではないか。
正規社員と非正規社員

 国公労連は、「内部留保のわずか1%の活用」でどの位の雇用増や賃金増が可能かを試算している。

雇用増
主要企業131社について、内部留保の1%を雇用に回すとする。年収が300万円で1年間雇用とすると、主要企業131社のうち81社においてそれぞれ1,000人を超える雇用増が可能となる。このうち23社では5,000人以上の雇用が可能であり、さらに、7社では1万人以上の雇用が可能となる。

正規労働者の賃上げ
 主要企業131社について、正規従業員全員に月1万6千円賃上げ(ボーナス4月含めて年間必要財源は25.6万円)するために内部留保の何%を取り崩せばよいかを試算した。
 主要企業131社のうち102社において内部留保の3%未満で正規労働者全員に月1万6千円の賃上げが可能となる。

非正規労働者の賃上げ
 主要企業131社のうち非正規労働者(雇用関係のある臨時従業員)の人数が明らかな企業は91社について、非正規労働者全員に月1万6千円賃上げ(年間必要財源は19.2万円)するため内部留保の何%を取り崩せばよいか計算したところ、91社のうち83社において内部留保の3%未満で非正規労働者全員に月1万6千円の賃上げが可能となる。

 特に、トヨタ自動車についての試算がある。正規33.3万人と非正規8.3万人とに月1万6千円の賃上げをするのには、内部留保の0.67%を取り崩せば可能という。

 このような「利己的強欲的動機」による流動性選好がはびこっていては、たとえリフレ策が理論的に正しいとしても「雇用回復と賃金上昇」が起こるわけがない。