2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
ミニ経済学史(29)

現在の経済学は?(8):リフレ策は本当に有効なのか(2)


 全国消費実態調査は5年毎に行われている。時代を追った変化を加味したいと思い、前回の表に2004年度のものを追加して2004年度と2009年度の表を併記してみたが、不十分であった。改めて1999年―2004年―2009年の資料並べる形で、年間収入・貯金額・株式所有額を抽出して表を作り直すことにした。そこでまず、その時代の経済の動きを知る必要がある。「現在の経済学は?(1)」で、デフレ不況の経緯をごくおおまかに調べているが、今度は少し詳しく調べてみる。

 1991年のバブル崩壊後、1995年に一時景気回復が見られたが、1997年4月の消費税引き上げを契機に不況は長期化した。1998年には多くの企業が減収減益となり、「日本列島総不況」状況になった。そして…

 1999年は日銀が2月に金融緩和策の一つとして「ゼロ金利政策」を開始した年である。

 2000年8月、景気は回復したとされ、ゼロ金利政策は解除されているが、企業のリストラが本格化し、失業率は悪化。企業の倒産件数も増えている。「ジョブレ・リカバリー(仕事のない景気回復)」と言われている。
 2001年、アメリカの景気後退の影響もあって、景気は再び悪化。3月、日銀は量的金融緩和を始める。銀行間の金利は再びゼロとなる。9月11日、アメリカで同時多発テロ発生。アメリカの景気悪化を受け、日本の景気もさらに悪化する。
2003年、世界経済の回復とあいまって、輸出と設備投資が伸び、景気回復の兆しが強まる。

 2004年 「景気回復から景気拡張へ」となった年とされている。

 2005年、経済財政白書は「バブル後からの脱却」を宣言。しかし、この景気には地方格差があり、また正社員と非正規労働者との格差も取り残されたままだった。
 2006年3月、日銀は量的金融緩和策を解除
 2007年7月、アメリカでサブプライムローン問題発生。金融機関が多額の損失を被り、金融危機となり、さらに株価が下落し、深刻な不況になっていった。
 2008年、景気はさらに悪化。リーマンショックが引き金となり、世界的金融不安となる。さらに世界的な株価下落、世界は同時不況の深刻化へと進む。

 2009年年末年始にNPO「年越し派遣村」が設置されている。10月には消費者物価指数が過去最大の下落率を記録した。

貯蓄高による区分     年間収入   貯金額   株式所有額(世帯%)
 ①150未満 487.9― 462.9―452.8   43.4―  41.7― 49.5  0.5(1.6)―  0.5(1.3)―  1.0(2.3)
②150~ 300 581.0― 540.4―519.9  125.8― 130.6― 142.8  2.5(4.3)―  2.8(3.8)―  4.3(5.1)
③300~ 450 634.2― 587.1―574.6  205.6― 213.3― 235.2  6.0(6.2)―  5.6(6.5)―  8.2(8.3)
④450~ 600 679.2― 631.3―599.7  280.9― 289.2― 325.7  9.6(9.2)―  9.2(7.4)― 12.1(10.5)
⑤600~ 750 716.2― 652.9―636.7  360.0― 374.1― 406.1 15.2(11.7)― 15.2(1.5)― 19.5(13.6)
⑥750~ 900 755.3― 691.7―655.8  440.4― 461.5― 482.2 20.7(13.8)― 21.3(13.5)― 26.8(15.3)
⑦900~1200 777.7― 709.2―672.7  573.1― 594.3― 625.1 32.5(17.6)― 30.5(16.1)― 40.9(19.4)
⑧1200~1500 828.3― 740.4―698.2  749.7― 784.5― 807.5 47.5(23.0)― 47.5(19.9)― 64.8(24.1)
⑨1500~2000 843.0― 774.8―725.3 1004.0―1016.4―1066.9 81.1(26.7)― 77.2(24.9)― 95.5(29.5)
⑩2000~3000 901.3― 806.6―739.9 1461.2―1517.4―1537.6136.9(33.0)―140.8(31.4)―157.6(36.1)
⑪3000~4000 953.7― 854.6―793.0 2060.9―2168.0―2183.3250.5(39.8)―223.9(39.4)―271.5(43.4)
⑫4000以上1140.8―1038.8―948.7 3839.2―4096.1―3918.4722.8(53.2)―686.8(53.7)―756.3(57.3)
―――――――――――――――――――――――――――
平均763.8―700.7―656.3862.6― 948.9― 936.7100.1(19.0)―103.9(18.5)―117.7(21.0)


 さて、上の表の年間収入を見ると、景気拡大とされる2004年にも改善は見られず、年を追う毎に下がり続けている。「イザナミ景気(3):その内実」で見た通り、脆弱な景気回復だったことが分かる。

 それにもかかわらず、区分①と区分⑫以外では貯金額は増え続けている。しかし、全世帯平均は「862.6―948.9―936.7」と、2009年度は減少している。2009年度では区分⑫だけが「3839.2―4096.1―3918.4」と、約180万円も減少している。区分⑫の世帯の貯蓄額は4000万円以上であり、上限がない。並みの金持ちのほかにいわゆる富豪と呼ばれる人たちも含まれる。このような統計では全世帯平均は区分⑫の動きに大きく左右されることになると推測できる。では、この貯金額の減少は何を表しているのだろうか。

 年間所得が減少しているにもかかわらず、株式所有額も軒並み増えている。区分⑫の2009年度の増加額は約70万円だが、前回の表を見ると、有価証券全体での増加額は約190万円である。区分⑫に限って言えば、資金が貯金から有価証券に流れたと考えられる。

 総じて、所得減にもかかわらず、貯金・株式が増加しているのはどうしてだろうか。資料がないが、次のように推測している。

 区分①から⑥ぐらいまでの世帯では決して流動性選好による貯め込みではないだろう。長引く不況に備えてより多くの貯蓄が不可欠となってきたのだ。そして、株の所有ついては、貯蓄額の多い世帯では、個人的ではなく投資ファンドを通しての投資かもしれないが、投機的な株売買をしている人が多いかと思う。しかし、一般の人は、決して売買での利鞘が目的の投資ではなく、金利の低い貯蓄に替わる配当金を当てにした投資だろうと思う。たとえ株を所有している全世帯が投機的な株投資をしているとしても全世帯の20%前後でしかない。株高で喜んでいる人々の数はその程度の数である。株価の高低に圧倒的な影響を及ぼしているのは機関投資家であろう。

 このような問題について、我が意を得たりと思った記事に出合った。以前にもお世話になった盛田常夫さん。『アベノミックスは「天動説」-俗流経済学で国民経済は救われない―』という論文から引用する。

(前略)

実物vs金融

 現代経済学から哲学的な概念がまったく排除されている訳でもない。たとえば、「金融経済と実体経済」という対概念が頻繁に使われる。金融と実体という対概念は奇異であるが、この奇妙な対概念は国民経済の現象と本質という関係を、哲学的な厳密性を無視して表現するものだ。

 実体経済はreal economyを、金融経済はmonetary economyを指しているから、「実物と金融」と表現すべきだが、「実体(substance)という表現にはそれこそが経済の本質であり、この本質こそが現実(real)であって、それと対比される金融経済は虚構(virtual)あるいは実体を包む形式(form)という意味が込められている。このように考えれば、奇妙な対概念の意味を理解することができる。

 このように、無意識に使用されている金融経済と実体経済という表現は一種の哲学的判断を含むもので、国民経済の本質は金融経済ではなく、実体経済にあることを示唆する対概念である。もちろん、金融と実物は相互に作用し合うが、実物に経済の本質があると考えるのは、しごく真っ当な思考である。ただし、金融と実体という表現を使っているエコノミストが、どれほどこの概念の区別と関係を理解しているかはきわめて怪しいが。

 まさに、この理解の度合いによって、アベノミックスの評価も分かれる。実体経済を重視する経済学者は金融政策の限界を指摘し、実体経済を支えている条件や環境の変化に目を向けるべきことを主張する。他方、アベノミックスを持ち上げる経済学者は金融政策から実体経済への作用を重視し、金融政策が惹き起す「期待」の変化が実体経済に影響を与えると考える。いわば、現象から本質(実体)を変えるという考え方である。

 相互作用があるのだから、金融政策が実体経済に影響を与えないことはあり得ないが、それは短期的の話であって、実体経済が抱える構造的で長期の環境変化には無力である。だからこそ、実物経済が究極的な本質であり、金融政策が現象なのである。それを逆に捉えるのが、「異次元の金融緩和」を支持する経済学者たちだ。まさに天動説に依拠した政策論である。

(中略)

国民はデイトレーダーではない

 GDP(Gross Domestic Products)は1年間に国内で創造された付加価値総額である。国民経済勘定システムでは、事後的に、生産された付加価値と支出された付加価値は等しいと想定するから、
 生産GDP=支出GDP(=消費+投資+政府支出+純輸出)
と表記する。この恒等式は、左辺の生産GDPと右辺の支出GDPが事後的にバランスすることを示している。付加価値総額は事業体の付加価値を総計して得られる。付加価値の実体が何かは教科書では一切記述されないが、労働支出と考える以外に方法はないだろう。この大きさを規定するのは、労働力の質と量である。高度成長によってGDPが急成長したのは、年間200万人もの新規労働力が国民経済に入っていったからである。高度成長が始まった理由も、高度成長が終わった理由も、究極的には新規労働力の質と量で理解される。

 しかし、俗流経済学はそのように説明しない。生産面からアプローチすると付加価値の実体の説明が不可欠になるので、GDPを支出面からだけで説明して価値実体論へ入るのを避ける。そして、恒等式を方程式として読み替え、右辺の消費、投資、政府支出、純輸出を独立変数とする関数関係として理解し、右辺のGDP支出項が増えれば、左辺の生産GDPも増えると解釈する。
 GDP=F(消費、投資、政府支出、純輸出)
こうして、生産されたものが支出されると読むのではなく、支出が生産を決めると逆読みし、生産を取り巻く社会的条件を無視して、消費や投資が伸びればGDPが伸びると考える。こうして、付加価値生産の実体を説明することなく、それを所与概念として、質を問わない量的関係だけに還元してしまう。

 アベノミックス効果を説明する場合、このロジックの中に金融緩和効果を挿入する必要がある。しかし、マクロ経済式に直接入れることができないので、「期待」という主観的な要素をカタライザー(触媒)として挟み込む。つまり、金融緩和政策が「期待」を通して先行的に消費や投資の増加を促進し、それが生産を牽引するという緩和効果論が展開される。

 現代の労働-生産条件の中で付加価値生産を如何にして増やすことができるのかという根本的議論を避けて、主観的「期待」に期待する議論だ。残念ながら、アメリカの世論調査でも8割の人が金融緩和の意味を知らない。日本の世論調査でもアベノミックスの恩恵をまったく感じないと答える人が8割もいる。

「期待」理論が間違っているのは、国民すべてがデイトレーダーのように経済行動していると想定していることだ。「異次元緩和」政策を賞賛する人々は、金融経済が国民経済を主導していると錯覚する「天動説」に陥っている。金融緩和の「期待」効果は金融投資を行っている主体に作用するだけのもので、そのような「期待」で国民経済が動いている訳ではない。

 このように現象的量的諸関係を操作することによって、経済世界を操作できると考えるのがアベノミックスを擁護する経済学者たちだ。そのような操作の余地があることを否定しないが、その効果は一時的なものでしかない。なぜなら、長期にわたってGDPが増えない原因は右辺の支出要素にあるのではなく、左辺の生産を支える社会条件の変化にあるからだ。現象と本質を区別できず、現象世界の操作に活路を見出そうとする政策は、歴史的な構造転換期を迎えている日本経済の有効な道筋を示すことができない。

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ミニ経済学史(28)

現在の経済学は?(7):リフレ策は本当に有効なのか(1)


 イザナミ景気の再不況化という顛末は金融緩和の打ち止めのタイミングを誤ったためである、という結論だった。簡単にまとめると次のように言えよう。
 日銀が打ち出したリフレ策は当初の設備投資や純輸出に主導されて上昇しはじめた。しかし、景況が個人消費の上昇にまで波及して好況が本格化する以前に金融緩和の打ち止めが行われてしまったため再不況に陥った。

 そして、こうした景況の推移はマクロ経済学の理論通りであるという。では、そのまま金融緩和を続けたとして、本当に本格的な好況を迎えることになっただろうか。私は大いに疑問視している。経済学の断片をかじり始めたばかりの私には確かな分析力が無いので、私の疑問に応じてくれるいろいろな学者の分析を手掛かりにしよう。

疑問1
 リフレ策がある程度の効果を発揮することは疑問の余地はないと思うが、実際の市場の動向には日銀の金融政策に対する「人々の予想」だけで動くほど単純ではないだろう。素人にも「人々の予想」とは無関係なさまざまな要因が関係しているだろうことは容易に想像が付く。現在進行中のアベコベミクスで見てみよう。アベコベミクスにより株価が上昇し円安が進んだと肯定的に語る学者が圧倒的に多いようだが、内実はどうなのだろうか。植草一秀さんの分析は次のようである。(「二首長選取りこぼしは安倍政権終わりの始まり」からの引用です。)

 2013年は安倍首相にとって順風満帆の年、わが世の春を実感した年であった。

 しかし、冷静に考えれば、成果と言えるのは円安・株高が進行したくらいのものだった。安倍首相はこれをアベノミクスの成功だとアピールするが、金融変動を詳細に分析すれば、それも正しくない。

 円安が進行した最大の背景は、米国長期金利の上昇にあった。米国の10年国債の利回りは2012年7月に1.38%の最低水準を記録した。これを起点に上昇トレンドに転換し、2013年9月、12月に3%台に乗せた。この米国長期金利上昇がドル高・円安トレンドを生んだ。

 日本株価は円ドルレートに完全連動しており、ドル高=円安トレンドの実現に連動して日本株価の上昇トレンドが発生した。

 アベノミクスの第一の矢、第二の矢である、日本の財政金融政策発動はこうして生じた円安・株高の流れを補強したに過ぎない。

私はこの分析はとても説得力があると思う。

疑問2
 「人々の予想」というときの「人々」とは誰のことなのだろうか。インフレ予想を企業が設備投資の判断基準としたり、銀行や投資ファンドや投資をなりわいとしている投資家たちが投資の判断材料とするだろうことは統計資料からも納得できる。しかし、少なくとも私はその「人々」の中には入らない。私は家(もちろんローンで)や自動車を購入するときにインフレ予想だとかデフレ予想とかを考えたことはなかった。いや、そんな言葉があることすら知らなかった。また、買い物はいつも必要なときに必要な物を買うだけだった。だから買いだめというのもしたことはない。消費税導入や消費税上げのときも石油危機のときも買いだめには無縁だった。また、緊急時などの必要に備える程度の貯金はあるが投資にまわすほどはないから、というより投資にまったく関心がなかったので投資をしたことはない。「流動性選考」で投資をしないわけではない。貯金や投資について、私と同じような経済活動(?)をしている人はどの位いるのだろうか。総務省統計局に全国消費実態調査というのがある。5年おきに調査されているようだ。2004(平成16)と2009(平成21)年版の全国消費実態調査を調べてみた。

 二人以上の世帯についての統計を用いる。原資料は貯蓄高によって12区分を設けている。それぞれの各区分について貯蓄高と負債高の一世帯当たりの平均が計算されている。ここで貯蓄とは通貨制預貯金(普通貯金+定期貯金 以下では貯金と略記)・生命保険等・有価証券を合計したものである。また、有価証券とは株式・株式投資信託(株式と略記する)、債券・公社債投資信託、貸付信託・金銭信託を合計したものである。データとして貯蓄高・有価証券をピックアップする。また、それぞれの貯金・株式の内数を( )で示した。なお、金額の単位は原資料は「千円」だが、ここでは「万円」に直した。

2004(平成16)年版
 貯蓄高による区分 世帯数(%) 貯蓄高(貯金) 有価証券(株式)有価証券所持世帯(%)
 150未満 12.44   60.8 (34.4)    0.6  (0.5)    1.8 (1.3)
 150~300 10.53  220.7 (110.7)    3.6  (2.8)    4.7 (3.8)
 300~450 10.13  369.3 (186.6)    7.7  (5.6)    8.1 (6.5)
 450~600  9.45  520.0 (256.4)   13.6  (9.2)   10.3 (7.4)
 600~750  8.33  668.0 (333.3)   21.2 (15.2)   14.1(10.5)
 750~900  6.53  820.0 (416.1)   31.7 (21.3)   17.8(13.5)
900~1200 10.70 1039.8 (541.6)   42.8 (30.5)   21.4(16.1)
1200~1500  7.12 1332.7 (718.3)   74.4 (47.5)   26.3(19.9)
1500~2000  7.64 1724.4 (937.0)  118.1 (77.2)   32.5(24.9)
2000~3000  8.04 2437.4(1419.5)  221.6(140.8)   41.4(31.4)
3000~4000  3.90 3438.7(2049.2)  391.9(223.9)   52.3(39.4)
4000以上  5.18 6528.4(3922.1) 1156.5(686.8)   67.2(53.7)
―――――――――――― ―――― ――――
平均     1555.7(887.1)   170.9(103.9)   24.0(18.5)

2009(平成21)年版
 貯蓄高による区分 世帯数(%) 貯蓄高(貯金) 有価証券(株式) 有価証券所持世帯(%)
 150未満 11.20   66.9 (49.5)    1.0  (1.0)    2.6 (2.3)
 150~300  9.08  216.9 (142.8)    5.2  (4.3)    6.5 (5.1)
 300~450  8.83  366.8 (235.2)   10.8  (8.2)   10.2 (8.3)
 450~600  7.53  519.0 (325.7)   17.6 (12.1)   13.4(10.5)
 600~750  7.02  667.3 (406.1)   27.4 (19.5)   13.4(10.5)
 750~900  5.43  819.2 (482.2)   36.9 (26.8)   18.9(15.3)
900~1200  9.27 1036.3 (625.1)   61.1 (40.9)   24.7(19.4)
1200~1500  6.75 1333.5 (807.5)   93.3 (64.8)   30.7(24.1)
1500~2000  8.39 1723.8(1066.9)  150.0 (95.5)   38.4(29.5)
2000~3000  9.94 2427.5(1537.6)  274.2(157.6)   47.2(36.1)
3000~4000  5.69 3440.7(2183.3)  465.1(271.5)   55.8(43.4)
4000以上  8.65 6504.6(3918.4) 1348.0(756.3)   71.1(57.3)
―――――――――――― ―――― ――――
平均     1520.8(936.7)   201.8(117.7)   26.6(21.0)

 こうした統計には組み込めない事柄がある。

 例えば、資産の一部を貴金属で所有したり、貸金庫や自宅の金庫で保有している人もいるだろう。あるいは最近よく話題になる「タックス・ヘイヴン」を利用して脱税をしている場合もあるだろう。その額は、莫大は資産を所有している人ほど、上の統計の貯蓄や有価証券を大きく上回るであろう。

 また、貯金について言えば、それが「流動性選好」の結果の貯金なのか、緊急時の必要に備えての貯金なのかはその金額だけでは簡単に判断できない。不意の病気・怪我や家屋の修繕、あるいは人生の後始末(生命保険のような遺産のことではない)に備えたりするほかに、未成年の子供がいる世帯ではその教育費を考慮する必要もあり、子供が多ければその額は相当なものになろう。

 このような統計資料からは読めない事柄は置くほかない。ともかく、上の資料から何か読み取ることができるかどうか、考えてみよう。
ミニ経済学史(27)

現在の経済学は?(6):イザナミ景気(4):再び深刻な不況へ


 「ケインジアンの時代(4)」で取り上げたように、1930年代の大不況のとき、アメリカのルーズベルト大統領は中央銀行による金融緩和策と政府による財政支出(公共事業)の拡大策を実行した。いわゆるニューディール政策である。このときの経緯を少し詳しく見てみよう。

 金本位制をやめて行った量的緩和策により景気が回復に向かったのは確かなことだった。そこで、1936年にルーズベルト大統領は量的緩和を打ち止めにした。しかし同時に、財政支出の拡大により膨らんだ深刻な財政赤字を解消するため、政府支出を削減する動きが出てきて、大統領選の争点にもなった。こうした状況での量的緩和打ち止めは時期尚早だったと言うほかない。翌1937年に入ると利子率が上昇し、株価が急落した。その年の後半には実体経済もはっきりと不況に転落してしまった。

 量的緩和政策について、松尾さんは次ぎのように述べている。
「量的緩和政策は普通じゃない政策ですから、景気か本格的によくなったら、いずれは打ち止めになるものです。しかし、どんなタイミングで打ち止めにすればいいのかは、相当デリケートな問題です。」
 ルーズベルトはこのタイミングを計るのに失敗した重大なケースだった。

さて、イザナミ景気のとき、このような前例があったので、金融緩和の打ち止めは慎重にすべきという意見もあったが、日銀はデフレから脱却できたと判断し、金融緩和体制からの撤退を進めて行った。
2006年
 3月 量的緩和打ち止め
 7月 ゼロ金利打ち止め。政策誘導金利を0.25%にする。
2007年2月
 再び利上げ。政策誘導金利0.5%に。
 そして、日銀はその後も近いうちに追加利上げをすると、強く示唆し続けたのだった。

 「イザナミ景気(2)」で述べたように、日銀が金融緩和を始めた頃のマネタリーベースは1973年のオイルショックのころ以来の高い伸び率だった。そして、その後のマネタリー・ベースの伸び率の推移を示すグラフが次の図である。これを見ると日銀の金融引締めが「異常」だったことがよく分る。

マネタリー・ベースの推移

 松尾さんは次のように解説している。

 2006年3月に量的緩和をやめて以降、大幅な落ち込みが続き、一時は20%を超えるマイナスとなっていたことが、分かります。これまではマイナスになるといっても、それはごく稀なことで、しかも短期間でした。それに、その落ち込みが5%を超えることは滅多にありませんでした。本来なら、1970年代のような高インフレ期にこそ、おカネを引締める必要があるのですが、当時はこの伸び率がマイナスになることはありませんでした。

 量的緩和やゼロ金利期の金融緩和のことを「異常な」という形容詞をつけて語る人がよくいますが、それをやめた後の方がよっぽど「異常な」、急な引締めだったというわけです。

 この異常な金融引締めの結果はアメリカの場合とまったく同じような株価の下落をもたらした。

 勿論株価の問題に止まらない。予想インフレ率(ブレーク・イーブン・インフレ率)も低下を続け、2008年の春先には一時マイナスを記録するに至った。これは人々のインフレ予想がデフレ予想に変わってきたことを示している。そして、それは設備投資の低迷化に連動する。前回の図4-3に見る通り、2005年には9.2%もあった設備投資増加率は2006年・2007年には2%台に落ち込んでいる。個人消費がほとんど増えず、設備投資だけが支えていたような脆弱な景気が破綻していったことになる。企業の経常利益の伸び率も減り続け、2008年1~3月期には17.5%も下落している。

 景気上昇の兆しが見えてきた2003年頃に設備投資費に次いで寄与度の高かった輸出はどうなっていたのだろうか。輸出は2007年には8.4%の成長をし、2008年1~3月期には、前年同期比10.9%もの成長をしている。この時期の実質経済成長率(前年同期比)は1.2%だったが、マイナスの寄与度需要項目が目立つ中、輸出は寄与度が1.8パーセントと突出している。ほとんど輸出が独力で成長を牽引していたことが分かる。松尾さんの解説を引用しよう。

 日本経済を支える唯一の生命線が輸出である以上、日銀が何をどうがんばっても、追加利上げなどという選択肢はあろうはずがありません。この時期、アメリカの中央銀行である連邦準備制度理事会は、景気が悪化することを心配して、金利をどんどん引き下げていきました。アメリカで金融緩和が進んで利子率が低くなると、アメリカと比べて日本でおカネを運用することの有利さが前よりも増しますから、日本でおカネを運用しようと思ってドルを円に換えようとする動きが強まります。すると、円を買いたいという力が強くなって円高になります。円高になると、各輸出商品の円価格は変わらなくても、ドルで表した価格は値上がりすることになりますから、日本製品を外国に売るのが難しくなって、輸出が減ります。

 そんなことになったら、景気をもたせている命綱が切れてしまいます。ですから、本来なら日銀もまたアメリカに負けじと金融緩和して、日本でおカネを運用することが前より有利にならないよう利子率を下げるべきところでしたが、当時はまだ心配するほどの円高にはならず、しばらくは利上げしないというだけでもなんとかなっていたわけです。

 しかし、そうこうするうちに、景気後退はどんどん進んでいきます。2008年9月発表の「法人企業統計調査」で、07年春から08年春までの四半期ごとの売上げの前年比伸び率を見ると、資本金10億円以上の大企業では一貫して3パーセントを超える増加が続いているのですが、資本金1億円から10億円の企業では、逆にマイナスが続いています。一部の輸出関連部門だけが好調を維持し、あとは次々と脱落していく状況が続いていったわけです。

(中略)

 こうした中で、とうとう9月のリーマン破綻恐慌を迎えたのでした。世界中のおカネが、サブプライムで傷んだ欧米の金融機関を嫌って、比較的安全な日本の金融機関に殺到。外貨を手放して円を求めたために、急激な円高が起こりました。

 かくして輸出は激減。日本経済を支えていた唯一の命綱がぷっつりと断ち切られ、日本経済は奈落の底に落ちていくことになったわけです。

 次いで松尾さんは、リーマンショック後の自民党政府や日銀の対応のまずさ(失政)を取り上げている。現在進行中のアベコベミクスの行く末を見通す参考になると思えるので、少し長いが全文引用しておく。

 ここまでのお話の中で、これまでのマクロ経済学の理論にない話は何一つありません。まったくセオリー通り、「こんなことをしたら、こんなことになる」と予想されることが、一つ一つ起こってきたわけです。

 ただここで、セオリーにないことも起きました。こんな状況で、急激に円高になったら何が起こるか、誰にでも分かるはずです。ましてや政府は総選挙も控えて、経済運営に失敗するわけにはいかない身のはずです。だとしたら、2003年にも行われたように、円高を抑えるための大規模な介入があるだろう。日銀が資金を用意し、円を売り外貨を買う介入をして、大不況への転落を必死で防ごうとするだろう。私は当然そのように思っていました。

 ところが麻生首相は、円高は健全さの証拠でプラスの面もあるとか、円高で株価が下がるのは昔の話とか言って、いっこうに介入をしようとしませんでした。外国為替市場への介入は財務省のやることですので、政府が決断すればできます。なのに、とうとう一円たりとも介入が行われることはありませんでした。財務省のホームページ内の「外国為替平衡操作の実施状況」というところで、為替介入の実施状況が載っています。それを見ると、リーマン恐慌以降のどこを見ても「0円」となっています。こうして、クビ切り吹き荒れる大不況への転落が放置されてしまったわけです。なぜなのか。正直今でも理由はまったく分かりません。

 このときの財務大臣は、当時経済関係三閣僚を兼務していた与謝野馨さんです。与謝野さんといえば、リーマン破綻直後に、「日本にももちろん影響はあるが、ハチが刺した程度。これで日本の金融機関が傷むことは絶対にない」と発言されていたことも思い出されます。

 その後、ご承知のように不況が激化していきました。例のブレーク・イーブン・インフレ率は、図4-10のように、リーマンショック後、どんどんマイナスになっています。最悪期は-3%ほど、その後も-2%ぐらいが続きました。
ブレーク・イーブン・インフレ率3
この数値の全部が全部、人々のインフレ予想を正確に表しているわけではないでしょうけど、前回の不況時に匹敵するかそれを超えるデフレ予想が抱かれたことは間違いないでしょう。そういうわけで、実質利子率はそのぶん高騰し、設備投資は壊滅、深刻な不況になってしまったと説明できます。

 そしてその後、実際の消費者物価指数も下落に転じ、2009年2月から本書執筆時点で入手できる最新データである2010年1月まで、前年同月比は毎月マイナスが続いています。しかも09年10月には過去最大の下落率を記録しています。

 こうした事態の進行に対して、日銀の対応はまたも遅れることになります。さっき(日銀のホームページ内にある「金融政策」のコーナー)の日銀総裁の記者会見のページで、2008年9月後半以降のものを見てみましょう。総裁はもう白川さんになっているのですが、相変わらず楽観的な見通しを語っていることに、改めて驚きます。例えば10月8日に至っても、「次第に緩やかな成長経路に復していく」と予想しています。

 実はこの日、世界10ヶ国・地域の中央銀行が、同時利下げをすることを取り決めました。しかし日銀は、これに加わっていません。先ほども書きましたが、世界中が金融緩和しているのに日本だけ変わらなければ、日本でおカネを運用する有利さが前より増して、円が買われて、ますます円高になります。それではたまりませんから、結局は日銀もその月末に利下げに追い込まれることになります。でも、0.5%だった政策金利を0.2%引き下げて0.3%にしただけ。事態の深刻さは、前のゼロ金利のころを超えているというのに。

 そうこうしているうちに、アメリカもイギリスもさらに利下げを続けます。12月16日、アメリカはとうとう同国初のゼロ金利に突入しました。今まで日米の金利差はアメリカの方が多少高いくらいで、有利さはトントンとみなされていたのですが、「金利逆転」ですからね。1ドル87円まで円高が進んでしまいます。結局、日銀は12月19日に、政策金利を0.1%にまで再利下げすることにします。

 こんなふうに日銀の金融緩和はいかにも「しぶしぶ」という感じで、他国、特にアメリカの積極姿勢と比べると際立って消極的です。実際、リーマンショック以降の主要先進国のマネタリーベース(中央銀行が出したおカネ)の推移を比べてみると、アメリカやイギリスの大胆な増大ぶりに対して、日本だけは地面すれすれの低空飛行。欧州中央銀行は、ドイツ連銀以来のインフレ警戒姿勢のため、金融緩和に消極的で困ると批判されたりもしますが、日本銀行はそれよりもっと消極的です。

 この姿勢の違いがもたらす結果は、各国の鉱工業生産の水準を表す指数の動きに如実に見て取れます。日米英独を比べると、リーマンショック後、金融緩和に消極的なところほど、落ち込みが激しくなっています。アメリカはサブプライム問題の発生現場なのに、一番落ち込みが緩やかです。次に緩やかなのは、アメリカについで金融を緩和しているイギリスです。ドイツになると、かなり落ち込んでいます。日本はサブプライム問題の影響をほとんど受けていないのに、一番落ち込みが激しくなっています。

 結局、2008年10月から09年9月までの一年間で、23,2338人の非正規労働者が雇い止めになり、うち6割がその間に再就職できませんでした。完全失業率も増加を続け、09年7月に5.7%と過去最悪記録をつけました。そのときの完全失業者数は359万人。またしても横浜市の人口(367万人)に匹敵する数です。その後、失業率は少しだけ低下していますが、完全失業者数は執筆時点の最新データである一月まで、前年同月と比べたら15ヵ月連続で増加を続けています。

 以上まとめると、今回の不況の基本的な原因は二つあるわけです。
 ひとつは、小泉さんの「改革」を筆頭とする、歴代自民党政権と財界の反労働者的政策。なんだか3、40年前のビラの文句みたいで書くのに躊躇しますが、本当にそう言うしかないことがなされてきたわけです。
 そして二つめは、日銀の一貫した金融引締め志向です。
 この二つの要因のせいで、リーマン破綻前からすでに日本の景気は後退していて、ちょっとしたショックで、いつでもドカンと落ち込む状態になっていたわけです。リーマンショックはそのきっかけにすぎなかったのです。さらに付け加えれば、リーマンショック以降の、麻生内閣による円高放置も、不況を深刻化させた原因のひとつに数えられるでしょう。

 教科書⑥の書名どおり、まさに『不況は人災です』。深刻な不況を引き起こした張本人たちは誰一人責任を取ることなく、今も偉そうにふんぞり返っている。労働者受難の時代はまだまだ続きそうだ。
ミニ経済学史(26)

現在の経済学は?(5):イザナミ景気(3):その内実


 イザナミ景気は「戦後最長」(2002年~2007年)とも言われているが、少なくとも私には好景気などという実感はまったくなかった。その「実感」はさまざまな統計資料によっても裏打ちされるだろう。

完全失業率は減少した?

 完全失業率が最も低下したのは景気最終年(2007年)の7月と12月で3.5%だった。これは景気が悪化する直前(1998年)の水準にやっと戻っただけの数字である。「平成不況」と騒がれていたバブル崩壊後の90年代前半でも、完全失業率はまだ2%~3%台前半ですんでいた。「完全失業率3.5%で好景気?」と当然「?」が付こう。

小売り販売額は?

小売り販売額

 2007年は2001年の段階にすら戻っていない。また、この時期は原油価格が上昇し続けていたので、原油関係の販売額は購入量の増加を示すものではない。そこで、原油価格上昇による影響を受ける「燃料」を除いたときのグラフが併記されている。それを見ると2002年以来不況の底が延々と続いているとしか思えない。

労働者の給与は?

 30人以上の事業所の毎月の現金給与(一般・パートを含む全体の平均)はどうか。2001年の39,7366円に戻せたことはなく、不況の底だった2002年水準を上回ったのは翌2003年だけである。2003年には景気回復が始まったことになっているが、「底」は2004年で37,6964円である。より詳しくは下のグラフを見ると一目瞭然である。

平均報酬

 このような不景気なデータばかりで、景気回復を示すデータは何もなかったのだろうか。ありました。2001年~2006年の間、企業の経常利益・株主への利潤配当は毎年伸び続けていたのだった。企業ばかりが潤い、その利潤は労働者には届いていない。次のグラフがそのことを如実に示している。

三大需要項目の伸び

この図についての松尾さんの解説を引用しよう。

 普通の景気拡大では、当初は設備投資や純輸出に主導されて上昇しはじめても、やがて個人消費が盛り上がってきて好況が本格化するものです。しかし、グラフを見て分かる通り、今回のケースでは、消費が最後まで盛り上がらないままだったので、設備投資や輸出が滞ると、たちまち挫折してしまう危険をはらんでいました。

 企業のもうけばかりが増えて、そこで実際に働いている人々はその恩恵にちっとも与れず、かえって貧しくなってしまった。今回の景気「拡大」のこんな特徴が、そのような脆弱さをもたらしたのだと思います。

 なんだか現在のアベコベミクスの現況とそっくりですね。安倍は企業に労働者の賃上げを呼びかけているが、一方でアベコベに、成長戦略と称して新自由主義的な労働の規制緩和を進めようとしている。実は、イザナミ景気が労働者にとってはまったくの不景気だった理由の一つがこの労働の規制緩和だったのだ。丁度本日(1月8日)、五十嵐仁さんが「経済蝕む新自由主義 いま決別を-新自由主義と日本経済(その2)」でそのことにふれているので、その部分の解説を引用しよう。

 すでに小泉内閣の時代に構造改革の一環として労働の規制緩和が着手され、労働の劣化を生み出してきたという苦い経験があります。その結果、ワーキングプア、ブラック企業、追い出し部屋やロックアウト解雇、過労死に過労自殺、メンタルヘルス不全などの多くの問題が生じました。

 安倍政権は、雇用政策の基本を維持から流動化へと転換させるとしていますが、日本の労働者の働き方は、すでにこれまでも十分に流動化し、不安定化しています。これ以上、クビを切りやすくすること、働く人々の不安を高めること、非正規化を進めてワーキングプアを増やすこと、労働時間の管理を緩めてサービス残業を合法化することが必要なのでしょうか。そのようなことをすれば、結局は日本の産業のみならず企業にとっても大きな災厄をもたらすということに、そろそろ気がついても良いのではないでしょうか。

 当時の正社員数と非正社員数の推移を示しているのが次のグラフである。

正社員と非正社員

 このグラフについても、松尾さんの解説を引用しておこう。

 産業構造を見てみると、第三次産業が増えていますし、サービス業や小売業はもともとパートの人とかが多いので、こうなるのも当然と思われるかもしれません。しかし、製造業にも同じような動きがあるのです。製造業だけの毎年のデータはないのですが、三年ごとの調査を見ると、やはり2007年には非正社員が約3割というところまで来ています。ここのところ何かと問題にされますが、特に派遣労働者の増加が目につきます。

 このように正社員が減って、賃金の低い非正社員が増えたために、社会全体で平均したら、景気が「回復」しても賃金が下がっていったという結果になったわけです。

 こうした動きは、「格差社会」というキーワードでよく表現されたりしますが、それはかなり誤解を招く呼び方だと思います。「格差拡大」と言うと、貧しくなる人が出る半面、働き者の成功者はどんどん豊かになっていくようなイメージがあります。

 しかし実際には、雇われて働く人々の所得額は、この10年、どんな階層を取ってみても、目立った増加はありません。森岡孝二さんはこれを「全層没落」と名付けておられますね。

 たとえば、従業員1000人以上の企業の大卒男性と、10人から99人規模の企業の高卒女性の初任給の伸び率を、2008年までの10年間で比べてみると、平均すれば両者ともほとんどゼロで変わりがないばかりか、むしろ03年以降は小企業の高卒女子の方が上昇しているくらいです。

 企業の経常利益や株主への利潤の配当は、景気「拡大」とともに増加を続けました。こうしたなかで、もとから大金持ちだった人の中には、たしかにうまいこと資産を運用することで、労せずしてたくさん配当をもらって、ますます金持ちになった人もいるかもしれません。しかし、雇われて働く立場の人たちについて言えば、所得はみんなよくて頭打ちだったわけです。その中でも特に低報酬の立場の人が増えたというのが実態でした。ですからこれは、「格差社会」と言うよりは、むしろ「貧困化社会」と言った方がいいのです。

 「図4-3」についての引用文中に
「普通の景気拡大では、当初は設備投資や純輸出に主導されて上昇しはじめても、やがて個人消費が盛り上がってきて好況が本格化するものです。」
という指摘があった。上に見てきたように、イザナミ景気は脆弱であり「好況が本格化」しなかったのだが、では、その原因は何だったのだろうか。