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2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
《「真説・古代史」拾遺編》(47)

壬申の乱(19):『古事記』序文が描く「壬申の乱」(1)


 古田史学をベースにして、実にたくさんの方が古代史を研究している。お互いに刺激し合い、論争を重ねながら、古田史学は日々深化発展をしている。古田さんが発表した論考は部分的には訂正が必要になっている事柄も結構出てきている。古田さん自身による訂正事項もある。ヤマト王権によって抹消された「真の古代史」の全貌がはっきりと確定されるためには、まだまだたくさんの研究されるべき事柄がある。優秀な専門家(学者)たちの参画が待たれる。しかし、古田史学(多元史観)を古代史研究のベースとすべきことが、「古代史研究の常識」として学者たちに認知されるにはまだまだたくさんの時間を要するようだ。

 さて、古田史学会の事務局長・古賀達也さんが『古事記』序文の「壬申の乱」を取り上げている。その論文(『古事記』序文の壬申大乱)を利用させてもらう。

 「岩波」では序文を3段に分け、次のようは表題を付けている。「第一段 稽古照今」「第二段 古事記撰録の発端」「第三段 古事記の成立」。「壬申の乱」の経緯は第二段のはじめに書かれている。文章は漢文で、「岩波」は次のように読み下している。

飛鳥の清原の大宮に大八州御(しら)しめしし天皇の御世に曁(いた)りて、濳龍(せんりょう)元(げん)を體(たい)し、洊雷(せんらい)期に應じき。夢の歌を開きて業(わざ)を纂(つ)がむことを相(あは)せ、夜の水(かは)に投(いた)りて基(もとゐ)を承けむことを知りたまひき。然れとども、天の時未だ臻(いた)らずして、南山に蝉蛻(せいぜい)し、人事共給(そな)はりて、東國に虎歩(こほ)したまひき。皇輿(くわうよ)忽ち駕して、山川を浚(こ)え渡り、六師(りくし)雷(いかづち)のごとく震ひ、三軍電(いなづま)のごとく逝(ゆ)きき。杖矛(ぢやうぼう)威(いきほひ)を擧げて、猛士烟(けぶり)のごとく起こり、絳旗(かうき)兵(つわもの)を耀かして、凶徒瓦のごとく解けき。未だ浹辰(せふしん)を移さずして、氣沴(きれい)自(おのづか)ら清まりき。乃ち、牛を放ち馬を息(いこ)へ、悌(がいてい)して華夏に歸り、旌(はた)を卷きて戈(ほこ)を戢(をさ)め、儛詠(ぶえい)して都邑(といふ)に停まりたまひき。歳(ほし)大梁(たいりやう)に次(やど)り、月夾鍾(けふしよう)に踵(あた)り、清原(きよみはら)の大宮にして、昇りて天位(あまつくらい)に卽(つ)きたまひき。

 現在では全く遣われていない漢語のオンパレードで実に難しい文章だ。「岩波」の頭注を頼りに意訳してみる。

 天武天皇の御世のこと、大海人皇子(天武)は天子たるべき徳をそなえ、活動すべき時期がやってきた。夢で聞いた歌を解釈して帝業を継ぐことを占い、夜半に川に至ったとき皇統を継ぐべきことがわかった。しかし、その天皇位に即く時がいまだ訪れず、南山に蝉のようにこっそりとぬけていったが、味方の軍勢も備わってきたので、東國に虎のように威風堂々と進軍した。輿(こし)を進め、山を越え川を渡り、皇子の軍勢は雷のように奮い立ち、諸侯の軍勢は稲妻のように進んだ。矛が威力を示し、勇猛な兵士が砂煙を立て、赤い旗は兵器を輝かせて、悪逆の輩は瓦のように砕け散った。短期日の間に妖気は清まっていった。すぐに戦いをやめて、心楽しく安らかに都に帰り、旗を巻き矛を収めて、喜びに舞い踊り都に留まった。そして酉年(天武2年)2月、原の大宮で天皇として即位した。

 『古事記』偽書説は影をひそめたが、『古事記』序文を後代の偽作とする説は今なお盛んのようだ。本文成立の100年ほど後に付け加えられたとしている学者もいる。だが、序文が描く「壬申の乱」が序文偽作説を一蹴している。そこで記述されている「壬申の乱」は『日本書紀』が描くそれとは相容れない。『日本書紀』が正史としてすっかり定着しているのに、権力(天皇家)の逆鱗に触れるような偽作文を、いったい誰が書いたというのだろうか。『古事記』序文も当然『日本書紀』成立以前に書かれたものだ。『古事記』序文こそが、『古事記』が検定不合格史書とされ抹殺された第一の理由だったのではないか。

 『古事記』と『日本書紀』の記述が相容れないとき、『古事記』の方を正とするというのが、両史書に対する史料批判よって導かれた原則であった。
( 『「古事記」対「日本書紀」』 を参照してください。)
 しかも、『古事記』序文は元明天皇への上表文として書かれている。上表文にわざわざ虚偽を書くとは考えられない。『古事記』序文の記すところが、当時の一般的な共通認識だったのではないだろうか。

 では、『古事記』序文が描く「壬申の乱」を検討してみよう。

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