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533 詩をどうぞ(27)
追悼・宗左近さん
2006年6月24日(土)


 宗左近さんがなくなられました。
 「第104回 2004年11月26日」で長編詩「炎える母」の中の一節 を紹介しました。最近は評論にも力を入れられていたようですが、詩作の方では 「縄文」シリーズと呼ばれている連作詩を精力的に発表されていたとのことです。 私は宗さんの最近の著作にはまったく疎く資料もありませんので、詩集「愛」 から2編選びました。この2編はぜひ対で読まれるべきものだと思います。



 ひかり

おぼえていておくれ坊や
あなたのお父さんが見つめている
ご近所のおばさんがそのおばさんのお子さんが
そして知らないおねえさんがかけよって
みんなみんな吸いこまれてのぞきこんでいる
この瞬間のひろがる明るさの波の渦
あなたから立昇る真新しい虹を
きっとおぼえていておくれ
わたしの腕のなかではじめて笑う坊や

あなたは弾む匂いです輝く息吹です坊や
あなたは膨らみやまない肉ですさわれる光です
あなたに夢を注ぐすべての視線と母乳の持ち主に
逆に夢を注ぎこむ夢の哺乳器です同時に夢です
あなたは不思議です奇蹟です生きている夢です
その頭のひよめきその瞳の灯りその頬のふくらみ
あなたはどこからきたの何を照らす光なの
この世には悪魔みたいなものはいるけれど多分
神様なんぞおいでにならないにきまっている
畏れげもなくそう思い定めてきたわたしだけれど
でも坊やこのひろがる明るさの波の渦をうむ坊や
おいでにならない神様もこの瞬間だけは特別に
おでましになっていて下さるからに違いない
みんなみんな吸いこまれてのぞきこんでいる
この不思議この奇蹟このひよめきこの灯りああ
おぼえていておくれ坊やいつまでも幻でないと

逆しまにしてのぞく望遠鏡の奥みたいな
近くて遙かなほの暗闇のなかからここだけ鮮明に
切り抜かれたわたしの心よりも小さなこの光の渦の
ああ中心の坊やあなたの目がやがてまともに
のぞくでしょう人生の望遠鏡の視野よりも近々と
しかし視野に決して入らないでしょう外側で
おぼえていておくれ坊やわたしたちみんなみんな
のぞきこんでいるのです見つめているのです
はじめて笑うあなたの瞳の奥を光らせるもの
おいでにならないかもしれないお方の涙を




 おばあさん

おばあさん
あどけなくほほえんでおいでのおばあさん
あなたのおなかから生まれでた息子や
その嫁やそこからまた生まれでた孫たちの
はじける幾つもの笑いの渦にさそわれて
曲った背中のように古い家のなかから
赤ん坊みたいに明るい笑顔をさしだして
おばあさん
冬なのにお天気でいいあんばいですね
これだけは鎖の外されない十一番目の家族
ポチもきき耳たてて縁側にやってきました
シャボンみたいな匂いをたてて泡立つ日だまり
けれどもポチの瞳は空の遠くに吸われています
そこには何がきらめいているのでしょうか
雲の頂きのくずれ落ちる雪崩でしょうか
地球の回転する眩暈の影でしょうか
いずれまぶしすぎ見えなすぎる何かだから
それを見つめて唸り声をあげようとするポチの
瞳の脅えを見つめておばあさん
あなたはゆったりほほえんでおいでですね
あなたの息子やその嫁やそこからまた生まれでた孫たちの
これだけの数の未来を生み続けてきたあとの
巨きな母胎の放つ優しい光の強いさざなみ
悲しみも悶えも疼きも底に沈めて()きとおらせて
もう生めない頃になって生まれた最後の家族
自分自身の赤ん坊であるおばあさん
人間でないポチと黙って通じあえることを
喜んでほほえんでおいでのおばあさん
宇宙船から見れば地球は青いレモンです
あなたの子供や孫であるわたしたちはまもなく
あなたとポチをこの日だまりに置去りにして
宇宙船みたいなスピードでまったく新しい天体へ
飛びさっていってしまうのでしょうけれどその時も
ポチの見つめている空の遠くよりもなお遠くで
あなたは宇宙に浮ぶ一個の石のかたまりを
あどけないほほえみのさざなみによって
夢みたいなレモンに変えてしまう光の中心なんです
おばあさん

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