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258 日本のナショナリズム(11)
「戦友」論
2005年4月30日(土)


 日露戦争の〈勝利〉は、明治の大衆ナショナリズムにさいしょの挫折・敗退をもたらした ―  ポーツマス条約を不満とする暴動がつげているのは、ナショナリズムの単一強化がようやく局限 にいたり、そこに〈階級〉をみいだすことによって分解せざるをえないという危機である。言い かえれば、近代天皇制国家〈像〉の確立にむかってひたすら強化され圧縮されていった現実の根 源じたいが、同時に社会=経済的に拡大していったために、もはや単一の〈局限=根源〉循環を ゆるさなくなった。

 色川さんが「真実、ナショ ナリズムに燃え、わが身を自発的に国家の側にすりよせるようになったのは、民権期ではなく、日清 戦争時でもなく、日露戦争にさいしてであった」と指摘したのは、この「ポーツマス条約を不満と する暴動」のことを指していると思う。
 「ポーツマス条約を不満とする暴動」となって爆発した大衆の(色川さんの言葉で言うと) 「野性的な絶大なエネルギー」は、支配者たちをおおいに震撼させたことだろう。また同時に この「野性的な絶大なエネルギー」を国家権力に直結させようと「大衆ナショナリズム」の収奪を 緊急の課題としたに違いない。明治の大衆ナショナリズムの「挫折・敗退」を吉本さんは次のように 述べている。
 天皇制イデオロギーは支配層によって、もっぱら大衆の「ナショナリズム」の心情の一面を逆立ちし た形で吸い上げながら、一面で「社会経済」的には、大衆「ナショナリズム」の社会的な基盤(農村) を資本制によって現実的につき崩すという両面を行使したのである。大衆の「ナショナリズム」は、こ こでは、天皇制イデオロギーに自己のイデオロギーが鏡にうつされるような幻想をあたえられ、一方で 自己の「ナショナリズム」の心情をつきくずすものが、資本制そのものであるかのように考える ことを仕向けられた。憎しみは資本制社会に、思想の幻想は天皇制に、というのが日本の大衆「ナショナ リズム」があたえられた陥穽であった。さればこそ、農本主義的ファシズムは、北一輝にその象徴を見 出されるように、資本制を排除して天皇制を生かす、というところにゆかざるを得なかったのである。

 さて、「戦友」である。
 あたうかぎり理念化され ― 加速的に進軍しつづけた明治的二拍子リズムは、そのピークをす ぎていまや減速 ― すなわちなんらかの現実化をせまられる。いささか比喩的にいうなら、この リズムじたいの内部に、いわばゆきだおれをふくまざるをえない ― それを象徴しているのが 《戦友》である。これが見捨てて置かりょうか、「しっかりせよ」と抱き起し……というように。  そしてそれ以後、この歌いじょうに〈総体的な暗い感銘〉(吉本隆明・日本のナショナリズム)を もたらす歌はほとんど不可能になった ― 〈自然さ〉がトータルにうたいだされることがなくな るのである。昭和期の軍歌は、一方で〈侍ニッポン》のように行進曲のリズムが自己放棄的な拡 散をみごとに表現してしまうといった事態をまえにしては、なんらかのモダニズムで仮装するい がい、単一強化のリズムを〈自然さ〉をふくんで回復することはできなかった。
 わたしが参照している《日本唱歌集》におさめられた《戦友》の曲譜には♪=114というテン ポの指定がある。歌の主題からしてこれはむしろはやすぎるテンポであり、全曲をこのテンポで 通すことはほとんどかんがえられない。(中略)原曲の指定通りに♪=114のテンポでうたうか ぎり、この歌(曲)はひどく軽薄で皮相なものとならずにいない。それは詩の主題がもとめると ころとかならずずれるのである。このようなテンポの二重性〈規範―心情〉は、〈国家〉の勝利 にむかっている作者(作詩者・作曲者)の理念と、じっさいにこの歌をうたう大衆がそこにこめ ようとするみずからの体験との乖離のはばをものがたっている。
 この「テンポの二重性」「〈規範―心情〉の乖離」を、アイ・ジョージが歌う「戦友」を例に、 菅谷さんはつぎのように詳述している。
 この歌の戦後的復活を可能にしたのは、ほかでもないアイ・ジョージの表現力であった。もっと も注目に価するのは、かれが曲のリズムに本質的ともいうべき修正をくわえている点である。
テンポ

譜Aのごとき反復パターンからなる原曲の長短型2/4拍子は、アクセントを強調すればするほど、 かえって一種の軽薄さをおびた加速度をもたらす。これにたいして、アイ・ジョージはその種の 惰性化にブレーキをかけ、加速度に抗して曲のテンポを恒常的に維持しうるリズム型をえらびだし た。あきらかにかれは譜Bのように、さらにいえばブルースの4/4拍子にちかくうたっている。うら の拍が強調されるので、ことばの拍音につよい指示力があたえられるのである。

この「テンポの二重性」「〈規範―心情〉の乖離」こそが 第二の「洋楽の土着様式」を解明する 鍵となる。
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