2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
宮古島市長選の争点

 関東大震災(1923年)の時に「朝鮮人が暴動を起こした」という流言が拡がって朝鮮人が多数虐殺されたという事件があった。今日(1月20日)の東京新聞が取り上げていた次のような記事を読んで、すぐこの事件を思い出した。

 私は知らなかったのだが、東日本大震災直後に宮城県内で「被災地で外国人犯罪が頻発している」という流言が流布されたそうだ。そのウワサは次のようである
 当時はSNSで「被災地で外国人窃盗団が横行している」「外国人が遺体から金品を盗んでいる」(遺体損壊)といったデマが飛び交い、被災者の間でささやかれていた。宮城県警はこのウワサが事実ではないこと確認している。

 郭基煥(東北学院大教授・共生社会論と言う方がこのデマを聞いた人たちの反応を調査した。調査方法と結果は次のようだった。

 日本国籍の20~69歳、計2100人を対象に実施。質問を郵送し、770人から回答を得た。回収率は36.7%。
 「被災地で外国人の犯罪があるといううわさを聞いた」と答えた人は回答者全体の51.6%で、情報源(複数回答)は「家族や地元住民」が68.0%と口コミが最も多く、次いで「インターネット」が42.9%。うわさとなった犯罪は「略奪、窃盗」97.0%、「遺体損壊」28.0
 うわさを聞いた人たちの内そのうわさを信じた人は86.2%で、年齢や性別で大きな差はなかったという。少ないながら外国人犯罪を「確かに見た」と答えた人(0.4%)、「そうだと思われる現場を見た」と答えた人(1.9%)もいたという。

 人は非常時には根拠のないウワサを信じてしまいやすくなるものだろうか。では多くの人々が、アベコベ軽薄姑息うそつきカルト政権が「集団的自衛権行使容認・戦争法強行採決・海外派兵・高額兵器購入(例:オスプレイ5機、1機当たり約103億円)・沖縄辺野古新基地と高江ヘリパッド建設工事強行」などの悪政の根拠にしている「中国の脅威」を疑おうとしないらしいのはどうしてなのだろうか。今、宮古島市長選挙(22日投開票)で大きな争点になっている自衛隊基地へのミサイル配備の論拠も「中国の脅威」である。東京新聞のこちら特報部(1月16日)はその経緯と基地規模を次のように報道している。

 陸自のミサイル配備計画が明らかになったのは2015年春ごろだ。国の「中期防衛力整備計画(14~18年度)」は南西諸島の防衛強化をうたっており、宮古島へのミサイル配備によって沖縄本島以南の防衛上の「空白」を埋めるのが狙い。中国を念頭に、本島との間の宮古海峡を突破して太平洋へ進攻する艦船をけん制するという。

 計画地は、宮古島中央部の航空自衛隊宮古島分屯基地にほど近いゴルフ場「千代田カントリークラブ(C)」。「こちら特報部が入手した計画案には「宮古島駐屯地(仮称)への配置予定として「部隊」のほか、「島しょに対する進攻を可能な限り洋上において阻止し得る対艦誘導弾部隊」「重要地域の防空を有効に行い得る地対空誘導弾部隊」と物々しい部隊名が並ぶ。部隊総数は700~800人だ。

 折しも、夕刊ゲンダイ(1月19日)で高野孟さんの『安倍政権 離島防衛のためのミサイル基地建設という欺瞞』という論説に出会った。歯切れがよく論拠にも全く虧損(きそん)がない。転載しよう。

 15日に告示された宮古島市長選の焦点は、陸上自衛隊のミサイル基地の建設を認めるか否かである。賛成・反対両陣営とも候補を一本化できず、4人が立つ乱戦模様だが、翁長雄志知事は反対派の前県議を支持している。

 安倍政権は盛んに「中国脅威」論をあおり、今にも中国軍が尖閣を手始めに南西諸島を“島伝い”に攻め上ってくるかのような時代錯誤も甚だしい(太平洋戦争の米軍ではあるまいし!)危機シナリオを振りまいて、まず与那国島に昨年、陸自の沿岸監視隊駐屯地を進出させたのをはじめ、石垣島、この宮古島、そして奄美大島にも基地を造ろうとしている。

 「離島防衛のための南西諸島戦略」というわけだが、これが当初、90年代にいわれ出した時には、「北朝鮮が国家崩壊し、一部武装した難民が大挙して離島に押し寄せる危機が切迫している」という“お話”だった。私はこれについてテレビやシンポジウムで何度も議論して、第1に、北朝鮮はそういう様態では崩壊しない(理由は今は省略)、第2に、仮に崩壊しても難民は99%、鴨緑江を歩いて渡って中国東北へ向かう――なぜなら中国東北には朝鮮族100万人が住むからで、なぜわざわざ海を渡って「資本主義地獄」と教えられている日本に向かうのか。第3に、そもそもそんな大量の難民が乗り組むだけの船がない、と指摘した。

 当時、ある公開の場で、後に防衛大臣となる森本敏にこの意見をぶつけ、「離島防衛なんてまったく架空の話じゃないか」と問うと、彼は苦笑いしながら「いや、実は旧ソ連が攻めてこなくなったので、北海道の陸自がやることがなくなっちゃったんだよ」と言った。

「なーんだ、用済みの陸自の失業対策だったんですか」と私がちゃかし、会場は笑いに包まれた。そんなことで、一時は下火になっていた離島防衛論だったが、野田政権の尖閣国有化の愚挙をきっかけに、東シナ海の“緊張”が高まると、それを利用して安倍が一気に基地建設の具体化を図った。

 マスコミは「宮古海峡を突破して太平洋に進攻する中国艦船を牽制」(16日付東京新聞)などと書き立てるけれども、ご存じですか、あの海峡は日本の領海でも接続水域でもなく公海なので、どこの国の軍民艦船が通過するのも自由であって、「突破」とかいう問題は、そもそも存在しないのだ。

 高野さんの文中にも(16日付東京新聞)からの引用文があるが、この引用の仕方ではこれが「こちら特報部」の記者の意見のように読めるが、私が引用した通り、これは記者が語った言葉ではなく「中期防衛力整備計画(14~18年度)」で語られた主張である。信頼している「こちら特報部」のために付言しておく。

 しかし、高野さんがこの引用文を批判している意図は、政府が垂れ流すウソを検証なしでそのまま引用するのはそのウソの拡散に手を貸しているという点にあると思う。そういう観点からは私も賛成する。今日(1月21日)の東京新聞の社説「首相施政方針 同盟を不変とする誤り」にもその例があった。その部分を引用する。
『中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル開発など厳しさを増す地域情勢を考えれば、紛争を抑止する警察力としての米軍展開の必要性は当面、認めざるを得ない。』
 これでは「中国の脅威」と「北朝鮮の脅威」を検証なしで認めていることになる。せめて「…地域情勢観…には検証が必要だが」ぐらいの付記があったらよいと思った。

 「中国脅威論」の検証は難しいが、この問題を取り上げているすばらしい論考に出会ったので、次回からそれを読んでみることにする。

(今回の記事から新たにカテゴリー「中国脅威論の信憑性」を設けることにしました。)
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「尖閣諸島棚上げ論」の検討

 前回話題にした宮古島市長選(1月22日投開票)は残念ながら宮古島への陸上自衛隊配備を容認している自民推薦の下地敏彦現職知事が再選された。しかし東京新聞は報道していなかったが、同時に行なわれた宮古島市議会議員補欠選挙(欠員2名5人立候補)では陸自ミサイル部隊の配備に伴う新基地建設反対の石嶺かおりさん(36歳 3児の母)が初当選した。(詳しくは田中龍作ジャーナルの記事『新基地反対の母親が当選 「生命の水を守れ」』をご覧下さい。)

 ところで、「中国脅威論」の検証を始めることにしたが、奇しくも田中龍作ジャーナルの記事がこの問題を取り上げていた紹介しておこう。
『【煽られる脅威】 漁師「(中国に対する)危機感はまったくない」 ~上~』
『【煽られる脅威】 要塞化する観光の島 ~下~』


 さて、私がこれから用いる参考論文は『21世紀中国総研』というサイトに連載されている岡田充(おかだ たかし、共同通信客員論説委員)さんの『海峡両岸論』という論文で、その第1号は2009年2月7日に書かれている。最新号は第74号「脅威論が生む排外主義「日本ボメ」現象再論」(2017年1月17日)である。実は岡田さんの論文『海峡両岸論』を知ったのは、サイト「ちきゅう座」が2017年1月18日に岡田さんの最新号を転載したのを読んだのがきっかけだった。克明に事実を調べ上げ、それを元に堅実な論考を進めている。是非他の号も読んでみたいと思った。

 まだ全部に目を通しているわけではないが、今回からのテーマに直接関係していると思われる論考は「第69号~第74号」のようだ。関心のある方はこれらを直接お読みになればよいわけだが、各号ともかなり長い論文だ。例によって何よりも私自身の勉強のため、岡田さんの論文を用いて今までに疑問を持っていたことを纏めて見ようと思った。

 まず論文の題名『海峡両岸論』について。
 論文の第1号は台湾問題(独立か統一か)を取り上げている。この場合は台湾海峡の両岸ということで、直接には中国大陸と台湾を指している。しかし、国際問題を取り上げるとき、西岸はマレーシア・ベトナム・朝鮮半島も関係してくるし、東岸はブルネイ・フィリピン・日本も関係してこよう。この場合は南シナ海・日本海の両岸という意味に拡大することになる。

 例えば、「中国脅威論」の主要軸の一つである「南シナ海紛争」では中国が管轄権を主張してきた「九段線」は次の上の図とおりであり、関係各国も主張を併記すれば下の図のようになる(南シナ海地図で検索して表れた地図から選びました)。
中国主張の南シナ海領海
南シナ海領海主張地図

 「中国脅威論」の主要軸は「南シナ海紛争」の他に「尖閣諸島問題」があるが、「中国脅威論」の根底を支えているイデオロギー(私は「虚偽意識」と訳している)として、中国・韓国・北朝鮮へのヘイトスピーチとその裏側に付着している「日本自慢」イデオロギーがある。

 では「尖閣諸島問題」から始めよう。

 尖閣諸島の領有権については「棚上げ」という用語がニュースで取り上げられていたが、これの経緯は次のようだ。
 1972年の日中国交正常化時、尖閣諸島の領有権は日中ともに主張していたが、「領有権問題の決着を先送りすること」で日中両政府が了解した。また、1978年の日中平和友好条約調印時にも同様の合意が行なわれたという。この時の双方の首相は田中角栄と周恩来である。

 しかし、現在日本政府は
「尖閣諸島を巡って中国側と『棚上げ』することで合意したという事実はない。」
「尖閣諸島はわが国固有の領土であり、解決すべき領有権問題は存在せず、中国との間で「棚上げ」や「現状維持」で合意した事実もない」
という立場を一貫して主張している。

 「棚上げ合意」で検索すると、この政府見解を否定する記事にたくさん出会う。政府の主張が真っ赤な嘘である決定的な証拠になると思ってサイト「データベース『世界と日本』」に掲載されている『日中国交正常化交渉記録』を読んでみたが、尖閣諸島をめぐっては次のようなやり取りしか記録されていない。

田中総理: 尖閣諸島についてどう思うか?私のところに、いろいろ言ってくる人がいる。

周総理: 尖閣諸島問題については、今回は話したくない。今、これを話すのはよくない。石油が出るから、これが問題になった。石油が出なければ、台湾も米国も問題にしない。


 なるほど、これでは「棚上げ合意」していたとは言えないだろうと思っていたら、岩上安身さんによる矢吹晋さんへのインタビュー記事『外務省が削除した日中「棚上げ」合意の記録 尖閣諸島問題の核心について』に次のような解説があった。

削除された「田中発言」

 『チャイメリカ』『尖閣問題の核心』『尖閣衝突は沖縄返還に始まる』などの著作があり、日米中関係に詳しい元東洋経済新報社記者で横浜市立大学名誉教授の矢吹晋(すすむ)氏は、岩上安身のインタビューの中で、当時の外務省中国課長・橋本恕氏が、田中角栄首相の発言記録を削除したと指摘した。

 矢吹氏によれば、外務省が公表している「田中角栄・周恩来会談」の記録では、尖閣諸島の棚上げを持ちかけた周首相に対する田中首相の返答が残されていないのだという。

 矢吹氏は、大平正芳元総理の追悼文集『去華就実 聞き書き大平正芳』(大平正芳記念財団編、2000年)に収録された「橋本恕の2000年4月4日 清水幹夫への証言」における、次のような記述を引用した。

「周首相は『これ(尖閣問題)を言い出したら、双方とも言うことがいっぱいあって、首脳会談はとてもじゃないが終わりませんよ。だから今回はこれは触れないでおきましょう』と言ったので、田中首相の方も『それはそうだ、じゃ、これは別の機会に』、ということで交渉はすべて終わったのです」

 このように、田中角栄首相の側も、周恩来首相の「棚上げ」提案に対し、「それはそうだ」と合意していたというのである。矢吹氏は、「日本政府は、『尖閣諸島に領土問題は存在しない』という立場と矛盾するという理由から、田中角栄の発言を削除したままにしている」と説明。日中間で尖閣諸島に関する「棚上げ」合意は確かに存在し、約束を反故にして現状を変更しようとしているのは日本側であると指摘した。

 それでは日中平和友好条約の時はどうだったのだろうか。日本の担当者は園田直外務大臣だった。外務省の次の記録記事td bgcolor="yellow">『第087回国会 外務委員会 第13号(1979年5月30日)』によると、その委員会で園田大臣は次のように答弁している。(「棚上げ合意」問題については社会党の土井たか子議員と井上一成が質問している。少し長くなるが土井さんの部分を転載する。)

○塩谷委員長
 土井たか子君。

○土井委員
 私は、まず尖閣列島問題についてお尋ねをして、さらに金大中氏事件に対しての質問に入りたいと存じます。
 園田外務大臣、中国側は口頭で遺憾の意を表明しておられるようであります。その中で、中日両国間の了解に違反していることは明白という旨の部分があるわけでありますが、日中平和友好条約締結の際にはそのような了解があったというふうに考えてよろしいわけでありますか。

○園田国務大臣
 北京における日中友好条約交渉の際、鄧小平副主席と私との間にこの尖閣列島の問題は出たわけであります。私の方から問題を切り出しまして、私が言ったのは、尖閣列島に対するわが国の従来の立場の主張、これを申し述べ、さらに先般のような漁船団のような事件があるのは困る、こういうことを申し上げたわけであります。
 これに対して鄧小平の言われた言葉、そのまま申し上げますと、この前のようなことは今後起こさない、尖閣列島は二十年、三十年いまのままでよろしいと、こう言われただけであります。
 したがいまして、その後来られた鄧小平副主席が、共同記者会見の際、これはたな上げだ、こういう言葉を使われたわけでありまして、北京では全然私の主張に反発もされず、たな上げという言葉も出さずに、両方からそういう言葉を言い合ったままで打ち切ったわけでありますから、ここに若干の食い違いはあると存じます。私は、日本古来の領土であると主張をして、この前のような事件は困る、こう言ったのに対して鄧小平副主席は、ああいう事件は起こさない、尖閣列島は二十年でも三十年でもいまのままでよろしい、こういうことを言われたのであります。


○土井委員
 そうすると、いまの外務大臣の御答弁の中では、北京においては、外務大臣は日本の領有権を明確に主張されたということがはっきりうかがえるわけでありますが、去る二月二十七日の予算の第二分科会の席で、同僚議員がこの尖閣列島問題に対して質問をいたしました節、外務大臣の御答弁はまことにきっぱりしたものであります。その内容は、「有効支配をするために施設をすることは絶対に反対である、」「有効支配のためにやるということになれば、」「外交的な儀礼はなくなるわけでありますから、今後ともその点については、私は自分の所信を貫徹するつもりでございます。」こういうふうに述べていらっしゃるわけでございます。今回のヘリポート建設並びに調査は、先方である中国から見ますと、有効支配の誇示というふうに見て抗議してこられたのではないかと思うわけでありますが、いかがでございますか。

○園田国務大臣
 そういう気配が見られたから申し入れをされたものと理解をいたします。

○土井委員
 そういたしますと、先ほど私が申しました二月二十七日の、まことにきっぱりとした外務大臣御答弁からいたしましても、今後、外務大臣としては、これにどういうふうに対処なさるかというのは大変大事なことになってまいります。この種の問題は、話がだんだん大きくなっていきますと、双方ともなかなか引っ込みがつけがたくなってまいります。したがって、話がこじれないうちに、穏便に処理しなければならないということは、鉄則とも言えると思うわけであります。日中間の友好関係にひびが入らないことを大前提として考えて、外務大臣は中国に対してどのようなアプローチを行うというお考えをお持ちになっていらっしゃるのか。いかがでございますか。

○園田国務大臣
 先ほど井上委員の御質問にお答えしたとおりでありまして、この申し入れに対してどのような対処をするか、現在の尖閣列島の問題をどう扱うかという問題はきわめてむずかしい問題でありますから、慎重に十分検討してやりたいと思いますので、いましばらく時間をおかしを願いたいと存じます。

○土井委員
 慎重に十分御検討ということでありますけれども、しかし現実の問題として、今回の運輸省や総理府の行為というものがあるわけであります。私たちは、これは運輸省や総理府のこれ見よがしのやり方だというふうに思います。外務省として、これに対してどうお考えなんですか。また、田中六助官房長官は、わが国の有効に支配している領土でもあるわけだから当然の措置であり、調査の中止などは考えないと言って、非常に強腰で述べていらっしゃるわけですが、私などこれを見ておりますと、外交的な配慮というのは全く足りないのじゃないかという気がしてなりません。これでは、園田外務大臣が政治生命を賭してがんばられたあの日中平和友好条約締結の際の御努力に水を差すものじゃないかというふうな意見が出てくるのも、至極当然だと思いますが、外務大臣、どのようにお考えになっていますか。

○園田国務大臣
 官房長官の談話は、私も新聞で拝見しただけでありますが、これは一般原則で日本古来の領土であるという立場をとっておりますから、そこで、日本がこれに対する必要な措置をするのはという意味のことを言われたんだと思います。したがいまして私は、この問題によって日中友好関係が阻害されないようにどのようなことをやるか、こういうことを慎重に検討したいと考えております。

○土井委員
 幾ら日本の国内における外務委員会で外務大臣がそのように抗弁されましても、相手方である中国から見れば、そのようには考えられないであろう。非常に強腰のあの発言というのは、私は外交関係からするとまことに刺激的だと言わざるを得ません。したがいまして、今回の調査などは有効支配の誇示ではないということを、中国に対して十分に理解が行き渡るように説明をするということの必要性も出てまいります。外務大臣は、その点についてはどういうふうにお考えになっていらっしゃいますか。

○園田国務大臣
 きのう、とりあえず申し入れのときに伴公使が申しておりますが、今後そういう点も含めて十分検討いたします。

 園田大臣の答弁にはぬらりくらりとした曖昧な部分もあるが、「尖閣列島は二十年、三十年いまのままでよろしい」という提案はそのまま受け入れているし、共同記者会見での鄧小平副主席の「これはたな上げ」という発言を批判したり抗議をしたりしていないのだから、尖閣諸島問題は「棚上げ合意」していたと読むほかないだろう。
「尖閣紛争」の検討(1)

(今回は「両岸論第70号」が教科書です。引用文は断りがない場合はこの論説からのものです)

 これからよく出てくる海洋法用語の意味を確認しておく。

 国連海洋法条約は領海・接続水域・排他的経済水域について次のように規定している。
第3条 領海の幅
いずれの国も、この条約の定めるところにより決定される基線から測定して12海里を超えない範囲でその領海の幅を定める権利を有する。

 そして、領海の通行権を次のように規定してる。
第17条 無害通航権
すべての国の船舶は、沿岸国であるか内陸国であるかを問わず、この条約に従うことを条件として、領海において無害通航権を有する。
第19条 無害通航の意味
1 通航は、沿岸国の平和、秩序又は安全を害しない限り、無害とされる。無害通航は、この条約及び国際法の他の規則に従って行わなければならない。(以下略)

第33条 接続水域
1 治岸国は、自国の領海に接続する水域て接続水域といわれるものにおいて、次のことに必要な規制を行うことができる。
a.自国の領土又は領海内における通関上、財政上、出入国管理上又は衛生上の法令の違反を防止すること。
b.自国の領土又は領海内で行われた(a)の法令の違反を処罰すること。
2 接続水域は、領海の幅を測定するための基線から24海里を超えて拡張することができない。(以下略)

第57条 排他的経済水域の幅
排他的経済水域は、領海の幅を測定するための基線から200海里を超えて拡張してはならない。
第58条 排他的経済水域における他の国の権利及び義務
1 すべての国は、沿岸国であるか内陸国であるかを問わず、排他的経済水域において、この条約の関連する規定に定めるところにより、第87条に定める航行及び上空飛行の自由並びに海底電線及び海底パイプラインの敷設の自由並びにこれらの自由に関連し及びこの条約のその他の規定と両立するその他の国際的に適法な海洋の利用(船舶及び航空機の運航並びに海底電線及び海底パイプラインの運用に係る海洋の利用等)の自由を享有する。(以下略)

 以上の水域の幅をまとめると次のような図になる。
領海線

(ウィキペディアの「領海」から転載しました。)

 ウィキペディアの「尖閣諸島問題」には2008年以降の中国による尖閣諸島への接近行為数が記載されていた。次のようである。
     接続水域   領海侵犯
2008年    2         2
2009年    0         0
2010年    46         2
2011年    12         2
2012年   428        73
2013年   819       188
2014年   726        88
2015年   709        95

 2012年から極端に多くなっている。何故か。これは尖閣諸島を国有化(2012年9月11日)したことに対する対抗行為である。岡田さんによると、それ以前の中国船による尖閣諸島周辺での動きでは、例外を除けば公船が進入することはなかったという。日本の領有権を認めたわけではないが、「棚上げ」路線に沿って日本の実効支配(管轄権)を事実上認めていたのである。それが国有化以後、海警船が定期的に12海里や接続水域に入るようになり、公船接近を常態化さた。これを「尖閣諸島を力で奪おうとしている」と危機感を煽るメディアがあるが、岡田さんはこうした報道は正しくなく『中国も実効支配している「実績」を重ねるのが目的である』と言う。
(私は尖閣諸島がどのような島々で構成されているのか詳しくは知らなかった。以下に魚釣島以外の島名も出てくるので、ここで尖閣諸島の地図を掲載しておく。(外務省のホームページから転載)
尖閣諸島

 以下、一部省略や再編成をした部分があるが、「海峡両岸論 第70号」から、直接引用する。

 中国の尖閣政策は国有化を境に大きく変化した。この4年でどう変わったのかを整理する。

 中国海警局の公船2隻と中国漁船6隻が8月5日(2016年)、久場島沖の12カイリ内に、初めて同時に入ったのだ。杉山晋輔外務事務次官は程永華駐日大使を呼んで抗議したが、周辺海域には連日300隻近い中国漁船が押し寄せた。さらに7日には計13隻の公船が接続水域に入り、国有化直後の2012年9月18日の12隻を上回る過去最多になった。今度は岸田文雄外相が9日、程大使に「日中関係を巡る状況は著しく悪化している」と抗議する事態に。接近した公船数は8日をピークに、25日まで続いた。

 いったい何が起きたのだろう。中国公船は、尖閣海域では通常3隻で航行する。だから今回が尋常でないのは明らかだ。メディアは北京の意図について「領有権主張に向けた既成事実化が狙い」(官邸筋)「南シナ海紛争の仲裁判断を巡る日本の対応に反発」(外務省筋)などという観測報道をした。メディアの報道内容は
(1)
 仲裁裁定に対する日本への反発
(2)
中国内政との関係
(3)
 尖閣奪取の試み
 の三つにざっと分類できる。(1)は官邸・外務省筋の見方と同様「仲裁裁判所の判決に対し、日本が判決受け入れを強調したことへの反発」「南沙問題から関心をそらす狙い」とする見立て。(2)は「共産党指導部が重要事項を協議する『北戴河会議』の開催時期と重なり、習近平総書記が対日強硬姿勢を打ち出し求心力を高めようとした」という見方である。

 (1)(2)の見立ては、何となく「据わり」がよく、それらしくみえるのだが、状況証拠に基づく憶測にすぎず、明確な根拠があるわけではない。では(3)の「尖閣奪取」はどうか。中国漁船には「100人以上の海上民兵が乗り込んでいた」と“特ダネ”風に伝えたある新聞は「尖閣奪取」の意図を言外にほのめかした。さらに全国紙のWEBサイト(29日)は、8月11日に起きたギリシャ貨物船と中国漁船の衝突事故は「偽装」で、海保が行方不明者の捜索に気をとられている隙に、人民解放軍が島を奪うというフィクション仕立ての長い物語を掲載した。「軍事専門」を自称する、妄想記者の「白日夢」である。

 本題に入る。中国は1971年末から尖閣の領有権を主張しているが、日中の指導者は「棚上げ」で暗黙の了解に達したとする。2010年9月7日起きた中国漁船と巡視船衝突事件では、当時の菅直人・民主党政権は船長を釈放せず、日本の司法手続きで処理したことを「棚上げ合意違反」と批判。さらに12年9月11日の国有化でも、「暗黙の了解」を東京が破ったとして、中国公船を12カイリに入れる報復措置をとった。

 習近平は2013年7月末、政治局学習会で領有権紛争処理の原則として

 領有権はわが方にある

 争いは棚上げ

 共同開発
 の三点を挙げた。尖閣でも南シナ海でもこれが北京の基本政策であり、棚上げと共同開発こそが紛争処理の原則である。

 日本側は「棚上げ」を認めていないが、実は中国側は国有化後も「棚上げ」を主張している。「棚上げ」の対象は「現状」だが、国有化以降「現状は変化した」というのが中国側の認識だ。新たな現状とは、日中がともに実効支配している「現状」であり、その最終目標は尖閣周辺海域の「共同開発」にある。

 日中両国は2014年11月、安部首相訪中の際「4項目合意文書」を交わした。その第3項が尖閣問題に関する項目で、「対話を通じて不測の事態を避ける」とうたった。これは北京からみれば「新現状に基づく新たな棚上げ合意」になる。

「尖閣紛争」の検討(2)

 日中両国は尖閣問題について2014年11月に「対話を通じて不測の事態を避ける」という合意を取り交わしたが、その後の両国はどのような動向を交わして行っただろうか。

 中国公船の尖閣水域への侵攻は2016年8月25日以降収まった。その理由をメディアは
『9月初め杭州で開かれた主要20カ国・地域(G20)首脳会議を前に「中国側が自制した可能性」がある』
と憶測していた。岡田さんはこうした憶測を「G20のスケジュールははるか昔に決まっていたのに…」と一蹴している。
 中国外交部は9日「中国固有の領土であり、争いのない主権がある」とした上で「正常なパトロールは中国固有の権利」と主張した。同時に4項目合意に触れ「双方が緊張や複雑化を避けるようにすべき」とコメントした。要するに日本に対し「事を荒立てる意図はない」とのサインを送ったのである。この間、中国の官製メディアが公船問題について一切報道を控えたことも、早期鎮静化を希望していた傍証になる。

 また、日時を少し遡ると、8月1日に中国漁船が大量に出漁し、それに伴って大量の公船が航行する事態が発生した。この事態に対して、直後に在京の中国外交筋が次のような説明をしている。
「8月1日の禁漁解禁で中国漁船が例年より大量に出漁し、監視に当たるため大量の公船が航行したのが実情。中国側に事を荒立てる気は一切なく、日本がなぜこれほど騒ぐのか理解に苦しむ」

 こうした中国側の説明には論拠がある。日中両国は1997年に漁業協定を結んでいる。それによると、尖閣諸島のすぐ北側に「日中暫定水域」を設定し、中国漁船が自由に操業することを認め、中国漁船の監視・取り締まりができるのは中国側である。

(ここで思い出したしたことがある。実はこの問題はすでに
『《米国の属国・日本》(12) <対中脅威論>』
『《米国の属国・日本》(13) <対中脅威論のジレンマ>』
で取り上げていた。参照して下さい。)


 こうした日米のやり取りについて、「海峡両岸論 第70号」は次のように論評している。

 2年前の秋、数百隻を超える中国漁船が、小笠原諸島付近でアカサンゴを密漁した時も「海洋進出を狙った偽装船」「乗組員に武装民兵」などの報道が目を引いた。領土・領海ナショナリズムにとりつかれると、「あちら」の非ばかりに目を奪われ、「こちら」の行為には無自覚になる。外務省の発表を鵜呑みにして、無理な「謎解き」をしたメディア報道は、テーマ設定自体の怪しさを疑わない「落とし穴」にはまった例だと思う。

 北京からみれば「日本政府はなぜこの時期に騒ぐのか?」という疑問こそ合理的なテーマ設定になる。ちょうど8月末、防衛省は2017年度概算要求で16年度当初予算比2・3%増の5兆円を超す過去最大額を要求した。海上保安庁も尖閣などの警備強化のため、巡視船と巡視艇計9隻を新造する7%増の概算要求を出した。眼鏡をかけ替えただけで「中国の脅威をあおる安倍政権が、安保法制の実行を急ぐため公船侵入を利用したのではないか」という全く「別の風景」がみえてくる。


 続けて岡田さんは「中国海軍の尖閣接近」問題を取り上げている。

中国海軍の尖閣接近

 ことしは6月にも、尖閣や沖永良部島で中国海軍の行動が活発化し、日本政府は北京に厳重「抗議」や「懸念」表明した。中国の行動は一見挑発的にみえるが、接続水域と海峡通過は、国際法上認められた合法活動である。「中国軍艦が接続海域に初侵入」「情報収集艦が領海侵入」などと大きく報じられると、多くの読者は「国際法に違反し日本の領域を侵害した」と受け取るだろう。しかしここは事実関係を冷静に見直す必要がある。北京の意図を分析する上で、尖閣接続水域での航行と、口永良部島や北大東島付近の日本領海航行は分けて考えたほうがよい。

 まず尖閣。外務省の発表によると、6月9日午前0時50分ごろ、中国フリゲート艦(写真 東京新聞=TOKYO Web=から)が久場島(黄尾嶼)と大正島(赤尾嶼)の接続水域に入ったのを自衛艦が発見。中国艦は午前3時10分ごろ大正島の接続水域を北上するまで航行した。これに先立ち8日午後9時50分ごろには、ロシア海軍の駆逐艦など3隻も同じ接続水域に入って北上し、9日午前3時5分ごろに同水域外に出たとされる。

 斎木昭隆外務事務次官(当時)は9日午前2時、程永華・駐日中国大使を呼び「一方的に緊張を高める行為で、受け入れるわけにはいかない」と「抗議」。程氏は「受け入れられないが政府に至急伝える」と答えた。これが外務省発表の概要である。

 中国側の反応はどうか。中国外交部報道官は「中国は釣魚島に対し主権を有しており、中国軍艦が自国の管轄海域でどんな活動をしても完全に主権の範囲内」と述べた。尖閣は中国の領土だから「何をしようと自由」という論理だ。

 一方、在京中国外交筋は「日本側の発表は事実ではない。中国艦は、海上自衛隊の護衛艦が入ったのに対抗して接続水域に入り追尾した」と明かす。さらに「斎木次官は抗議という表現は使わず、懸念と述べた」と指摘した。接続水域は12カイリの外側12カイリに設定され、基本的には「公海」とほぼ同じであり、軍艦を含めどの国の艦船も自由に航行できる。接続水域内の航行は合法だから、日本も「抗議」ではなく「懸念」にとどめたのだと同筋はみる。

 争点は「合法性」にあるのではない。中国は、日本の尖閣国有化以来、海警船を接続水域と領海に入れている。しかし双方間では軍艦は入れない事実上の「紳士協定」があった。だから争点は「どちらが先に入ったか」になるのだが、この点は「藪の中」としか言いようはない。

 南沙諸島(スプラトリー)で、米国と対立する中国が今、尖閣で事を荒立てもあまり利益はない。国家海洋局などが7月中国で開いた海洋問題の国際シンポジウムで、主催者が筆者に対し、発表テーマについて「政治がらみは避けて欲しい」と要求していたのもそれを示す一例だ。当時中国側は尖閣紛争が外交問題化しないよう極めて神経質になっていた。

中ロ共同行動ではない

 「中国の挑発行動」の構図が独り歩きしているが、「中国側が意図して入ったというより、結果論に近い」(政府筋)という見方に説得力を感じる。これを機に中国が軍艦の派遣を続け「日本の実効支配を力ずくで突き崩そうと試みる可能性がある」と予測するのは早計だ。

 今回、中国中央テレビは論評で「興味深いのは日本が中ロ両国の軍艦が『共同行動』したと認めようとせず、政府の発表でも中ロ両国の軍艦が『同じ時間帯』に同じ海域に出現したとしか述べていない」と指摘。その理由として、安倍政権がプーチンと平和条約交渉を進めたいため「中ロ共同行動」を認めたくないからだと「深読み」したのだ。興味深い見方だが、先の中国外交筋は、「中ロ共同作戦」の意図について「全くの偶然であり、そういう意図はないと思う」と否定した。

 一方、中国情報収集艦の口永良部島や北大東島の領海航行のほうは、比較的分かりやすい。米海軍が南沙諸島の中国埋め立て地12カイリ内を通過する「航行の自由作戦」への報復行動だと言ってよいだろう。安倍政権はことし4月、自衛艦や潜水艦をフィリピン、ベトナム両国に繰り返し寄港させ、艦船供与を積極的に申し入れた。北京から見れば、安倍政権の南沙紛争への露骨な介入だ。日本側も十分それを意識しているはずであり、対日警告の意味が強い。

 領海航行に懸念表明した日本政府に対し、中国側は「いずれも国際海峡であり、通常の通航である」とはねつけた。対日米報復の意図については、中国外交部報道官が6月15日の記者会見で「(中国軍艦の行動は)米国の最近のこの地域での行動と関連づけられている。従ってこの問題解決の根源を米国に求めることができる」と微妙な説明をした。中国側の行動を問題にするなら、まず米国に「航行の自由作戦」を止めさせるべきだという理屈だった。

 何が脅威なのかはその「意図」と「能力」で決まる。ただ軍事行動は多くの場合「機密」だから、意図を見極めるのは難しい。日本側の発表をそのまま伝える報道を鵜呑みにすると、恣意的な判断が独り歩きしてしまう。8月の公船侵入もそうだが、一方の主張を絶対視せず、他方の声にも耳を傾けて相対化することこそ、実相に近づく道である。

 次回から「南シナ海紛争」を検討する。
「南シナ海紛争」の検討(1)

今回からの参考書は「海峡両岸論 69号」ですが、矢吹晋著「南シナ海 領土紛争と日本」を併用します。それぞれ『両岸論69号』『南シナ海』と略記します。

 南シナ海紛争の沿革をさかのぼれば、日本が「新南群島の所属に関する件」を閣議決定した1938年にたどり着く。それ以来現在に至るまでの経緯については必要が出てきたときに触れることにする。

 現在、南シナ海紛争がにわかに大きくマスコミに取り上げられるようになったのは常設仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)による南シナ海紛争に対する仲裁裁定が下りたとき(2016年7月12日)からだった。その仲裁裁定にいたる経緯は次のようである。

 2013年1月、フィリピンが仲裁手続きを求めた契機は、中国が前年の4月にフィリピン・スカボロー礁を奪ったことであった。フィリピンの訴えの内容は

 中国の「九段線」には法的根拠はない

 中国の人工島は引き潮の時に露出する「低潮高地」か「岩」で、EEZ(排他的経済水域)や大陸棚の権利はない

 人工島などの開発は、国連海洋条約の環境保護違反
など15項目に及ぶ。

 この提訴に対し中国側は「認めず、参加せず、受け入れず」の姿勢をとり続けてきた。理由は
(1)
 中国フィリピン両国が合意した交渉による解決という二国間の取り決めに違反
(2)
 中国は06年に国連海洋法条約に基づき、強制的紛争解決手続きの適用除外を宣言した
(3)
 裁判所は領土主権と海洋境界画定問題について判断する権限はない
であった。裁定後も中国はこの姿勢を維持している。

 フィリピンは、中国が仲裁裁定を拒否したので、2014年3月に国連海洋法条約の強制的仲裁に提訴した。(『南シナ海』では提訴先を「海洋法常設裁判所」(オランダー・ハーグ)と書いている。)
 その提訴の内容を『南シナ海』からの転載するが、その内容はより詳細になっていて、紛争の舞台である南支那海の詳細な地図が必要なの、それも転載しておく。
南シナ海
フィリピンによる海洋法常設裁判所への提訴内容

 中国はいわゆる九段線によって、中国の「主権権」と「歴史的権利」を主張しているが、これは海洋法と相容れない。

 フィリピンEEZ内のスカボロー礁(=黄岩島)に中国はEEZや大陸棚を持たない。

 ミスチーフ礁(=美済礁)、セカンド・トマス礁(=仁愛礁)、スビ礁(=渚碧礁)は中国の領海、EEZ、大陸棚ではない。

 ミスチーフ礁、セカンド・トマス礁はフィリピンのEEZ、大陸棚の一部である。

 ガベン礁(=南薫礁)、マッケナン礁(=西門礁)、ヒューズ礁(=東門礁)は、低潮高地であり、領海、EEZ、大陸棚を持たない。

 ジョンソン南礁(=赤瓜礁)、クワテロン礁(=華陽礁)、ファイアリー・クロス礁(=水暑礁)は、EEZ、大陸棚をもたない。

 中国は不法にも、フィリピンのEEZ、大陸棚で生活資源を開発している国民と船舶の活動を妨げている。

 中国は不法にも、スカボロー礁で伝統的漁業に従事するフィリピン漁民の活動を妨げている。

 中国はスカボロー礁とセカンド・トマス礁で海洋環境を保護し保存する海洋法の義務を履行していない。

 ミスチーフ礁における中国の占領と埋め立ては海洋法の規定を無視したものだ。

 中国はスカボロー礁を航行するフィリピンの船舶と衝突するような危険な行為を行い、海洋法の義務を蹂躙している。

 2013年1月にフィリピンが仲裁を申請して以来、中国はセカンド・トマス礁でさまざまの干渉を行い、フィリピンの航行の権利を侵害している。

 この提訴に対する裁定の詳細は次の通りであり、フィリピンの主張がほぼ全面的に認められた。


 中国は海洋環境保護に関する条約義務に違反し、埋め立てや人工島造成によって、生態系やサンゴ礁に取り返しのつかないほど甚大な損傷を与えた

 中国は中国漁船によるウミガメやサンゴの密漁を容認

 中国はフィリピンの油田探査や漁民のスカボロー礁での伝統的漁業権利を不当に妨害し、フィリピンの主権を侵害

 中国公船は海洋の安全に関する条約義務に違反し、フィリピン船への接近を繰り返し衝突の危険を生じさせた

 中国は、仲裁手続き開始以降も南沙諸島で大規模埋め立てによる人工島の造成を行い、仲裁手続き中に対立を悪化させることを避ける義務に違反。

 ここまでの紛争は中国とフィリッピンとの間のスカボロー礁をめぐっての紛争だが、上の裁定の⑤で取り上げられている中国が非難されている「南沙諸島(スプラトリー諸島)で大規模埋め立てによる人工島の造成」問題までも視野を広げれば、南シナ海紛争問題は中国だけが非難される単純な問題ではない。『南シナ海』で矢吹さんは英『エコノミスト』誌(2015年3月2日)が掲載した「南シナ海実効支配競争」という下の地図を転載して次のように解説している。
ラプラトリー諸島

 これによると、埋め立て工事をやっているのは中国だけではない。中国のほかに台湾もベトナムもマレーシアもフィリピンもそれをやっており、滑走路建設(地図中の飛行機マーク)も中国だけではなく、台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシアが以前から行っている。中国のスプラトリー諸島海域作戦は遅れて始まり、他の諸国の埋め立てはほとんど終わったときに、すなわち2014~2015年にかけて急激に行われた。

 日本敗戦から数十年に及ぶ沿岸諸国の実効支配競争と先行する滑走路建設は不問に付して、遅れてこの競争に参加した中国のみを非難し攻撃するのは明らかにフェアな態度ではない。この点で米国と距離をおく英誌の図1は比較的公平な態度をとろうと努めていることが察せられる。

 著者は2012年に書いた『チャイメリカ ー 米中結託と日本の進路』のなかで、「米中結託」をキーワードの一つに選んだ。ところが、その後、「米中結託」よりは「米中対決」が基調となったかに見える。米中関係の核心は「結託」ではなく「対決」ではないかという見方が広く行われている。著者によれば。これはメダルの表と裏である。どちら側から見るかによって見方は変わる。日本政府は米国政府に追随して、反中国を煽っているため、日本のメディア等は「対決」論一色だ。「攻撃的中国」の横暴に対して、日米協調により、「中国を封じ込める」と称する倒錯した議論が日本を席捲している。

 だが、これは特殊日本的な偏見、謬論にすぎない。ベトナムやフィリピンは、スプラトリー諸島の領有をめぐって中国と鋭く衝突しているが、両者ともに中国の提唱するアジアインフラ投資銀行には「創設国」として参加し、中国の提唱する「一帯一路」構想がグローバル経済の発展に役立つとする認識で一致している。アジアインフラ投資銀行の可能性を否定して、参加を拒否して、外野席で悪口ばかり繰り返す日本とは大違いなのだ。

 ベトナムもフィリピンも国益を第一に考慮して、近隣の大国とのつきあいを慎重に模索している姿の一端をこの一例からうかがうことができよう。

 こうした歴史的な事実を無視して、権力に追随して「中国脅威論」を煽る日本のマスゴミの論調にいたずらに捉われる愚民にはなるまいと、改めて自戒している。