2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
ひらりちゃんの童話集
「グリーン グリーン」(1)


(もうずいぶん昔のことです。私の身近にいた少女・にしのひらりちゃんが、小学校5年生~6年生の頃、「おはなしづくり」に興じていました。その「おはなし」のできばえに感心したひらりちゃんのお母様がその「おはなし」をまとめた冊子を何冊か手作りして、私に一冊下さいました。先日古い文書を整理していたら、長らく忘れていたその「おはなし」が出できました。改めて読んでみて、私もそのできばえに感心しました。私のホームページの所期の趣旨とは全く関係ないのですが、ちょっと息抜きということで、その「おはなし」を紹介することにします。)

グリーン グリーン

 1988年8月1日、南アメリカのアンデス山脈、ナスカはとても暑い。口では言い表せないほどだ。そこには不思議な地上絵がたくさんあった。くじら、鳥、魚、中でも一番大きく目立つものは、グリーンだ。グリーンと言っても緑色をしているのではない。ほかの砂地とかわらぬ白っぽい砂色だ。けれど、朝日が昇り始めた時や、夕日が沈み始めた時に、いつも
「グリーン、グリーン。グリーン、グリーン。オォー。」
という声が悲しそうにナスカの砂漠にひびきわたる。その声はどうやら、一番大きな地上絵から聞こえてくるようなのだ。
 地上絵の研究家はそれを聞いて言った。
「これはナスカの熱風が、夕日や朝日の一番きれいな時に一番速くなって、砂の吹く音が、グリーンと聞こえるのだ。」
「いいえ、これは飛行機の爆音です。」
などなど、もっともらしい話や、うそのような信じられない話、おばけ話、わらい話。そしてみんなはその声を録音したり、航空写真を撮ったりしてさわぎたてた。

 ある日の真昼、いつもと同じようにナスカは暑かった。その広い広い砂漠にポッツリと小さな点が二つ、グリーンに向かって歩いて来た。よく見ると、それは真っ赤なチョッキに真っ赤なくつ、真っ赤な帽子に真っ赤な半ズボンのふた子のかわいい男の子だった。二人はグリーンの長い長い角の部分に坐った。 グリーンは小さな声で
「お前達は研究隊か? もし研究隊員だったら、私の角に坐ることは許さない。」
二人の男の子はもっともっと小さな声で
「ボクたちは研究隊員なんかじゃありません。ボク、なんかあなたに呼ばれているような気がして、弟と来たんです。ボクの名前はサンライズ(朝日)。弟はサンセット(夕日)。」
するとグリーンは、感激したような大声で
「なんだって。君たちが、私のずっーと待っていたサンライズとサンセットかい。」
するとサンライズは人差し指を口にあて
「シ-ッ、ボクたち、アポロン(太陽)やムーン(月)やスター(星)たちに内緒で来たんだから。」
グリーンは小さな声で不思議そうに言った。
「えっ? アポロン? ムーン? スター?」
「そう、アポロンはボクの父さんさ。ほら、あそこだよ。空の真ん中にいるんだ。」
 グリーンは言われた通りに、カンカン照りつける大きな赤い太陽を見た。太陽はじっと動かずに自分の息子を見ているようだった。グリーンは大きなため息をついて
「君たちのお父さんは、あまりにも大きくて暑すぎるよ。君らはもう見つかっているさ。それにしてもなんて暑いお父さんだろう。」と言った。するとサンセットが弁解するようにしゃべり始めた。
「アポロンはとても大切だよ。アポロンが雲に隠れてしまって雨が降ると、町や村のみんなは『あーぁ、雨か。』とがっかりするよ。アポロンはとても好かれているんだ。」
するとグリーンは叫んだ。
「雨? 雨? 雨が降るの? あの冷たい小さな水の粒が雨でしょう? 雨! 雨!」
サンセットは不思議そうに言った。
「そうだよ。グリーンは雨を知らないの?」
グリーンは言った。
「知ってるさ、知っているとも。私が目を開いた時に見えたのは、青い空とコンドルと、ただ暑いだけのアポロンさ。暑くて暑くて身体がバラバラになりそうな時、降ってきたんだよ、雨が。気持ち良かったな。」
サンセットが口をとんがらせて言った。
「アポロンのこと、そんあふうに言わないで。」
 その時だった。空が急に暗くなった。夜のように暗くなった。三人はアポロンを見た。
「アポロン!」
「アポロン!」
サンライズとサンセットはびっくりして泣き出しそうになった。グリーンは
「心配することないさ。君らは知らないの? 今までに何回も何回もあったさ。ただの日食だよ。そんなに驚くことないよ。」
サンライズは心配そうに叫んだ。
「ちがう!」
「えっ?」
グリーンは訳がわからなかった。
「ちがうんだよ。アポロンが休憩する日は…つまり日食の日は。ボクや弟の誕生日や、春風が遊びに来た時や、何か特別なことがある時なんだよ。でも…、今日は何の日でもないんだよ。」
サンライズとサンセットはとうとう泣き出してしまった。グリーンはどうすれよいのわからなくて、ボンヤリと暗くなった空を見つめていた。

 その頃、人間たちもさわいでいた。
「日食が私たちに前もってわからなかったなんて、何ということだ。」
「地球に何かが起こったのだ! 地球は爆発するぞ。」
「私はまだ死にたくないわ。どこに逃げれば助かるの? お金ならたくさんあるわ。」
さわいでいるうちに夜が来た。といっても、空ははじめから暗いので人々にはそれとすぐにはわからない。ただ、月と星が出たのだ。時計を見て、人々は夜だということをやっと感じた。(つづく)
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ひらりちゃんの童話集
「グリーン グリーン」(2)


 サンライズとサンセットはやっと泣きやんで、ホッとしたような声で、
「ムーン、スター、ボクらはここだよ。」
すると、月は星たちと一緒にゆっくりとグリーンの方に降りて来た。そして、グリーンの角の先にスッと立った。月はとてもやさしそうな顔をしていた。そして、真っ白なドレスを着ていた。身体からは青白い光を放っていた。うしろの星たちはじっとしている事が出来ないらしく、絶えず
「キララ キラキラ キララ」
と歌いながらクルクル回っていた。不思議なことに星たちは一人残らず黄色いスカートをはいた女の子だった。グリーンは
「ああ、このきれいなお月さまがサンライズの言っていたお母さんのムーンだな。するとこのキラキラ光っている嬢ちゃんたちは、サンライズやサンセットの妹だな。」
と思った。やがて静かにムーンが口を開いた。
「サンライズ、サンセット、わかっていますね。おまえたちが勝手なことをしたばっかりに、この地球は夕日がないまま夜をむかえ、朝日がないまま朝をむかえることでしょう。こんなことは初めてです。」
サンライズとサンセットは悲しそうに自分たちの美しい母さんみつめていた。グリーンは二人をかばうつもりで言った。
「きれいなお月さま、どうかこの二人をしからないで下さい。私が偉大なアポロンをけがしたために、アポロンはおおこりになったのでしょう。私がいけないのです。」
すると、月はゆっくりと首をふって
「いいえ、グリーン、アポロンはあなたのことをおこっていません。アポロンはおこって空から消えたのではありません。人々やあなた方はこれを日食と思っているようですが、それは違います。アポロンは自分の仕事をやり終えたから空から消えたのです。空の仕事のしくみはこうです。まずサンライズがゆっくりやみの中から出て来ます。そしてある決まった場所に来るとアポロンに交代します。そしてアポロンも、自分の仕事場所の終わりまで来たらサンセットと交代します。そして、夜になれば私たちの仕事です。だから、今日は日食ではなく、夕日が出なくて、その間だけ暗くなったという事です。おわかりになったでしょうか。」
と言った。グリーンは嬉しそうに
「本当におこってないんですね。」
と声をあげた。月はやさしそうに目を細めて
「おこるどころか、アポロンはあなたがさみしそうなので心配しているのです。」
とゆっくり言った。グリーンは
「そうなんです。私はしたい事がたくさんあるのに出来ないのです。」
「どうして?」
ムーンはたずねた。グリーンは
「どうしてって、私は地上絵だから、飛びたくても飛べないし、水のたくさんある所へも行けない。それに歌も歌えない。」
ムーンは今度はきっぱりと言った。
「あなたは、したい事は何でも出来ますよ。あなたは地上絵じゃないもの。ただ人々が地上絵と言っているだけです。さあ、飛んでみなさい。歌ってみなさい。」
グリーンは不安そうに羽を持ち上げてみた。羽はバッサと音をたてて地面から離れた。みんなはじっとグリーンを見つめていた。グリーンはいよいよ地面から浮き上がり、やがて舞い上がった。星も月もない真っ暗な空に円を描いた。
「とべる!」
グリーンは叫んだ。
「とべる、とべるんだ。歌もきっとうたえる。」
グリーンのあとから、月や星たちもうれしそうに舞い上がった。
グリーンはとても嬉しかった。
「とべた、とべた。歌もきっとうたえる。」
そして、一つ大きく息を吸って歌い出した。

1
 みどりを ください
 はなを ください
 あめよ 降ってください
 かんかん 照りつける
 太陽は いらない
 やさしい やさしい
 朝日と 夕日が
 あればいいのです
   グリーン グリーン

2
 忘れることは できません
 昔 昔の あの雨を
 白い白い 真っ白い
 砂なんか いらない
やさしい やさしい
みどりが
あればいいのです
   グリーン グリーン

3
 友だちを ください
 自由を ください
 海よ川よ みずうみよ
 「めずらしい地上絵だ」
 とさわいでほしくない
 めずらしくなんかない
 花と朝日と 夕日と雨と
 そして 自由を
   グリーン グリーン

4
 とびたい とびたい
 ただ とびたい
 私の前に 大空は
 いっぱい いっぱいに
 広がっているのに
 コンドルだって
 とんでいるのに
 何もかもが
 暑い暑い 太陽のせい
 私に必要なのは一つ
   グリーン グリーン

 いつの間にか、月や星は見えなくなり、サンライズが仕事を始めていた。そして、グリーンにささやいた。
「グリーン。アポロンが、暑すぎるのはどうしようも出来ないけれど、その分、ナスカに雨を降らせてくれる、ってさ。」
グリーンは、とても嬉しくなった。そして 「ありがとう! ありがとう!」
と叫んで、宇宙にとび出していった。

5
 とべた 歌えた
 自由に なれた
 友達 だって
 たくさん出来た
 もう 一人ぽっちじゃない
 暑い 太陽でさえも
 大切な 友達
 白いナスカを
 みどりと花で
 あふれさせてみせる
   グリーン グリーン

 そしてグリーンは、いろんな星へ飛んで行き、いろんな木や花の苗や種子を持ち帰ると、ナスカに植えた。一年、二年たつうちに、太陽と雨のお陰で、ナスカは自然がいっぱいの美しい場所となった。グリーンはそこに絶対人間を入れなかった。

 グリーンはもう悲しいさけび声を決してあげなかった。 (終)
ひらりちゃんの童話集
不思議なフウセンガム(1)


不思議なフウセンガム

「ねえママ100円ちょうだい。」
とゆり子は顔を真っ赤にして、お勝手口からとびこんできました。れいぞう庫に卵をしまっていたお母さんはびっくりして卵を一つ割ってしまいました。
「まあ、ゆりちゃんどうしたの? びっくりするじゃないの。」
おかあさんは、ぞうきんでゆかをゴシゴシふきました。ゆり子はもう一度大きな声で
「だからね、100円ちょうだい。」
と言いました。
「100円で何を買うの?」
お母さんがきくと
「あのね、マム買うの。イチゴとレモンとメロンとハッカーとチョコレートの味の。」
とゆり子はいっきに言いました。
「えっ? まむってなあに。ママ知らないわよ。」
「だって、てつくんがいってたよ。マムって、あのね、おもちみたにクチャクチャってかんで、プーってふくらむマムよ。」
お母さんは笑いながら言いました。
「それはフーセンガムでしょ。マムじゃないわよ。ガム。」
そして、エプロンのポケットから、100円玉をひとつ出してゆり子ににぎらせてくれました。
「昨年おばあちゃんにもらったビーズのかざりのおさいふに入れていくのよ。」
「はあーい、いってきます。」
ゆりこはバババババーッと二階の自分の部屋に走りこんで、宝物のふくろからおさいふを出すと、その中から、いっぱいつまっていたおはじきをベッドの上にぶちまれると、100円玉をいれて、ニッコリ笑ってから、いちばんきれいなおはじきを一枚入れて、またバババババーッとお勝手口から出ていきました。
お皿をあらっていたお母さんは
「まあ、ゆりちゃん!」
と言ったとたん、おさらをわってしまいました。「ハーッ」と大きなため息をつくと
「まったくあの子は。」
と言いながら、マムのことを思い出してクスッとひとりで笑いました。

「マムはマムでもマムじゃない、マムはマムのなにかな、わーかる人。」
と歌いながら、ゆり子はスキップして行きました。そして坂の向こうの横断歩道をわたると、もういつもてつくんが行くおかし屋さんです。でも今日はちょっとちがいます。おかし屋さんが二つ並んでいるのです。
「あれー? おかし屋さん一つしかなかったのにー。そうだ、おちょんちょでどっちで買うか決めよう。どっちにしようかな、神様の言うとおり、おちょんちょおちょんちょまっくろこげやけた。こっちー。」
そして大きい声で
「こんにちは、マムください。いっぱいマムくださいな。」
するとニコニコ顔のおじいさんが出て来ました。ゆり子は、〈てつくんと来た時はおばあさんだったのに、私、まちがえちゃったみたい。でも神様がこっちって決めたんだから、ぜったいこっち〉と思いながらビーズのおさいふから100円玉を出しました。おじいさんが
「おじょうちゃん、この店のガムは100円。けれどもマムは100円とちょっとだよ。どっち買うの。」
と言いました。ゆり子は
「おじいちゃんて不思議ね。ママは私がまむって言うと『ガムよ』と言い直すのに、おじいちゃんはどうして言わないの?」
と聞きました。
おじいさんはやさしい顔で言いました。
「わしがマム屋だからさ。フォッ フォッ。」
「それなら私、マム買うわ。はい、100円とちょっと。」
ゆり子は100円玉とおはじきを差し出しました。おじいさんは大きな手で受け取って
「ほい、たしかに100円とちょっと。」
そして空色のガラスのビンをゆり子にくれました。ゆり子は栓をあけて、一つぶ口に入れてクッとかんでみました。イチゴの味でした。ゆり子はおじいさんのまねをして
「ほい、たしかに私のマム。」
と言いました。そしてスキップをしながら、てつくんの家に行きました。(つづく)
ひらりちゃんの童話集
不思議なフウセンガム(2)


「てつくーん、遊びましょ。マムで遊びましょ。川に行って遊びましょ。」
するとてつうくんが二階の窓から顔を出して言いました。
「ゆりちゃん、上がってこいよ。」
「ウン!」
ゆり子はくつをポーンとぬいで
「おじゃましまーす。」
と、どんどん勝手にてつくんの部屋まで上がっていきました。ゆり子は自分のマムをかみながら、てつくんにも一つぶあげました。てつくんはすぐかんでみて
「おれの、メロン味だぜ。」
と言って、クチャクチャプーと風せんみたいにふくらませました。すると、メロンの形にふくらみました。いっぱいいっぱいふくらんで、窓から出ていそうになりました。てつくんはヘタの部分をしっかりつかんで、窓わくの所にふんばりました。そしてゆり子に
「ゆりちゃん、はやくふくらませ!」
と言いました。ゆり子ははじめてなのでドキドキしながら、フーッと息をふきこみました。するとイチゴの形に大きくふくらみました。二人はそれに乗って窓から飛び立ちました。その時、机の上にあった花びんの花が折れてしまいました。でもぜんぜん気が付きませんでした。二人はフワフワ飛んで行きます。てつくんが聞きました。
「あといくつ残っている?」
「えーと、1,2,3…5個よ。」
その時、スズメの大群がやってきました。
チュイチュイピピピピピ…… プツン!パチン!
スズメにつつかれてガムの飛行機は割れてしまいました。
「キャー、助けて!」
二人はドボンと川に落ちてしまいました。スズメたちが心配そうに集まって来ました。
「ごめんね。チュンチュンピピピピピ…」
ゆり子は大いそぎでマムを二つ出しました。一つぶてつくんにあげて、クチャクチャプー。そして
「長くのびろ、長くのびろ。」 と言うと、ビューとゆり子のマムがスズメの足にからみつき始めました。てつくんのマムも同じです。
「さっ、スズメさん、お家に連れてって!」
パタパタパタパタ…。てつくんの家についた時はもう六時でした。ゆり子は残りの三つぶのうち二つぶをスズメにあげました。そして最後の一つぶは大切に自分のたから物のふくろに入れておきました。

 次の日、お母さんはゆり子に言いました。
「ゆりちゃん、おつかいに行って来てちょうだい。おかし屋さんのとなりの八百屋さんよ。モモを四つ買ってきてちょうだい。」
ゆり子は
「ハーイ!」
と元気よく返事をすると、ビーズのさいふを急いで持ってきました。そしてお母さんから買いものかごを受け取ると
「行ってきまーす。」
と玄関から出て行きました。
「おばちゃーん、モモ四つください。」
とゆり子が大きい声で言うと、あばさんが出て来て
「ハイハイ、モモ四つね。」
と、モモをゆり子のかごに入れてくれました。帰り道、ゆり子は八百屋さんの方をふり返って、大変な事に気が付きました。
「マム屋さんがない!」
ゆり子は全速力で走って家に帰りました。
「ただいまー!」 「あら、ゆりちゃん、はやかったわね。」
お母さんにモモをわたすと
「大変、大変!」
と言って、自分の部屋にころげこみました。そして、たから物のふくろの中身を全部ぶちまけました。てつくんからもらったシール、キャンディのつつみ紙、赤い石ころ、おはじき、毛糸のきれっぱし……。けれどもマムはどうしてもみつかりませんでした。(おわり)
ひらりちゃんの童話集
「明日になったら」


明日になったら

「明日になったら、ママ、帰ってくるよね。」
ナナは、おばあちゃんのひざの上に頭をもたせてたずねました。
「ああ、ああ、帰ってくるともさ。」
おばあちゃんが言うとナナは、
「ああ、よかった。だって明日は入学式でしょ。ママがいないとこまるもん。」
と、ぴょんとはねおきていいました。
「今日はナナの好きなシチューにしてやる か。おいしいぞー。」
おばあちゃんが、かっほう着をきながら言いました。ナナは、
「ウン。おじいちゃんも、もうすぐ帰ってくるね。うれしいなー。」
と言いながらトントントンと、かいだんをのぼって自分の部屋にとびこみました。そしてピカピカの机にそっとさわってみました。それから机の下の赤いランドセルをしょってみました。そしてベッドにすわっている人形のリンをだきあげました。リンはお母さんが買ってくれた人形で、ふるとリンリンなるすずを手にもっているようせいの形をしていました。
「リン、かっこいいでしょ。このランドセル。ナナはねぇ、一年生よ。入学式にはママと行くんだ。リンはお家で留守番しててね。」
その時、ガラガラとげんかんのあく音がして、
「ただいまー。」
という声が聞こえました。
「あっ、おじいちゃん!」
ナナはリンをだいたまま、かいだんをかけおりていきました。

 ホカホカゆげをたてているシチューをおいしそうに食べながら、ナナは言いました。
「おじいちゃん、ママは何時ごろに帰ってくるの。朝、ナナがおきたらいる?」
するとおじいちゃんはちょっと考えて、
「そうだなあ。明日の夕めし時かなぁ。」
と言いました。ナナはびっくりして、
「えー。それならナナの入学式にこれないじやないのー。」
と言いました。おじいちゃんは、
「うーん、そうか。明日が……。こまったな。」
とひたいにしわをよせました。おばあちゃんは、ナナを安心させようと思って、
「大丈夫だよ。おばあちゃんが、いっしょに行とうてあげるからねー。ナナちゃん。」
と言いました。でもナナは泣きながら、
「いや、いや。ママじゃなくちゃイヤー。」
と言って、自分の部屋に、かけこんでいってしまいました。おじいちゃんとおばあちゃんはまだ半分のこっているナナのシチューを、とほうにくれてながめていました。
 「バカバカー。ママのバカー。」
ナナはリンをだいて、自分のベッドにもぐりこみました。まくらが涙でつめたくなってきました。
「今までずっとおりこうにしてたのにー。」
ナナは泣きつかれて、いつの間にかねてしまいました。

 おばあちゃんにお母さんが帰ってくる日をききながら、ようち園にかよっていました。おじいちゃんにお母さんの帰ってくる日を教えてもらいながら、夕飯を食べました。こんな毎日がもう二ヶ月も続いています。ナナのお母さんはお医者さんです。今、他のお医者さんたちといっしょに、アフリカへ出張しています。ナナは本当にこの日まで、よくがまんしました。

 朝はやく、ナナは目がさめました。ソッとおきて、リンをさがしました。リンはベットの下できゅうくつそうにねむっていました。ナナはリンのかみの毛をやさしくなでてやりました。リンリン……とかわいい鈴の音がナナの耳の中にひびきました。するとナナはとても悲しくなっておばあちゃんのねている部屋にそっと入って、ふとんにもぐりこみました。おばあちゃんはうす目をあけて、
「おや、おばあちゃんのふとんの中に、ナナねずみが入ってきたな。リンさまもいっしょかね。」
といいました。ナナはフフッとわらって、
「ねえおばあちゃん、ママのおはなしして。」
とせがみました。おばあちゃんはうんうんとうなずいて、こんな歌をうたってくれました。

 ちっちゃなねずみは知ーらない。
 となりのお部屋にやさしーい
 お医者さんねずみがいることを
 一番早い電車で来たことを。

ナナは、小っちゃいねずみは私みたい、と思ってあっと声をあげました。そしてふすまを半分あけてふり返り、
「きのうはごめんなさい。」
とおばあちゃんにあやまりました。となりの部屋にねていたお母さんのまくら元には紙づつみがありました。
「ママ」
ナナがよぶとお母さんはすぐに目をあけました。そして、
「ただいま、ナナちゃん。」
といいながらおき上り、ナナにほほずりしました。
「紙づつみはおみやげよ。」
ナナは急いで紙づつみをあけました。
「ナナちゃん、よめるでしょ。」
ナナは目をきらきらさせながら読みました。
「ナ・イ・チ・ン・ゲ・ル」
お母さんはナナにナイチンゲールの本を読んであげました。
「フローレンスは小さい時からとても心のやさしい子どもでした。……」

 ナナとお母さんは、ゆっくりとさくらのさいている小学校の門をくぐりました。
「ねえ、ママ。ママはナイチンゲールみたいだね。私もナイチンゲールみたいになりたいなー。」
と言いました。それから、
「なれるように、ちゃんとお勉強するよ。」
と言って先をかけていきました。そんなナナの後すがたを、お母さんはうれしそうに見ていました。(おわり)