2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
企業経営の社会主義化(1)

 『大搾取!』(スティーブン・グリーンハウス著/曽田和子訳 文藝春秋)という本を読んでいる。アメリカの労働者が置かれている悲惨な現状を克明に描いたルポルタージュである。著者は外交や労働問題を担当しているニューヨーク・タイムズの経済記者だ。目次を転載する。

第一章 酷使の現実
 分単位で休憩時間を計測、解雇社員にゴミ漁りを奨
 最低賃金は貧困ラインを下回る……
 救われないアメリカの労働者たち。

第二章 不満には恐怖で
 安全軽視の工場で次々と事故が起こる。
 声をあげた者に待っていたのは、ひどい罪の濡れ衣だった

第三章 働く意欲が失せていく
 街の歴史ある工場が大資本の傘下に。
 経営は赤字ではないのに押し付けられる人件費削減。
 絞って得た利益は吸い上げられるばかり。

第四章 戻ってきた十九世紀
 夜間閉鎖の家の中でサービス残業を強要され、通報者には匿名保護もない。
 今のアメリカは、貧しい人に三ドル貸してクビになる社会なのだ。

第五章 消えた会社との約束
 安定雇用が経営の定石だった時代はあった。だが、株主利益を会社が重視するようになるにつれ、労働者への報酬はコストとみなされるようになる。

第六章 弱者がさらに弱者を絞る
 電子化で、いまや重役達も些事まで把握できる。
 労働者の人間らしさを認めていたら、現場監督のクビはすぐ交換されるのだ。

第七章 派遣 終わりなき踏み車
 必要な時だけ呼び、不要になれば消えてもらう。
 経営者が重宝する使い捨て労働者たちには、保険や年金どころか誇りすら与えられない。

第八章 低賃金の殿堂ウォルマート
 万引き犯を捕まえた熱血警備員。その負傷で得た報酬は、医療費逃れの懲罰解雇。
 小さなスーパーはいかにして小売業世界一となったか

第九章 王道はある
 誰もが世界的市場を口にする。手厚く労働者を遇していたら生き残れぬと--。だが搾取経営に逆らって成功した事例はこんなにもある。

第十章 瀕死の労働組合
 労働者にとって必要なのは、労働組合なのだ。しかしアメリカの労働組合は腐敗しきっており、組織率は一割にも満たない。蘇る道はあるのか?

第十一章 はいあがれない
 金持の子は大学院でMBAをとって初任給十六万ドルも夢ではないが、貧乏人の子には大学は学費値上げでどんどん遠ざかっている。

第十二章 夢のない老後
 企業年金は資金不足で反古にされ、頼みの401kプランは欠点だらけ。
 年金で充実した晩年をおくるなど、夢のまた夢だ。

第十三章 すべての船を押し上げる。  グローバリゼーションで世界はフラット化した。ならば、世界中の労働者の非人間的な搾取にノーを突きつけるべきなのだ。

 新自由主義先進国アメリカが到達した惨憺たる現状が目次に目を通すだけでも読み取れよう。そして誰もが日本の労働環境も同じだと思うだろう。アメリカにあこがれた小泉・竹中が日本にも新自由主義を導入し、アメリカを後追いしたのだ。当然同じ結果になる。『大搾取!』の巻末に湯浅誠さんが解説を書いている。題して「日米大搾取のパラレル」

 ところで、第九章では「搾取経営に逆らって成功した事例」が取り上げられている。それらの成功例が示すさまざまな経営手法を、私は「企業経営の社会主義化」(厳密には「リバタリアン社会主義」と言いたい)と言ってよいのではないかと思った。このような観点をもって、第九章を読んでみる。
スポンサーサイト
企業経営の社会主義化(2) 小売企業コスコトの場合(1)

 従業員を搾取することなく(=人間として大事に扱い)成功している企業は日本にもかなりあると予想しているが、私の狭い情報源には入ってこない。できれば日本の例で話を進めたいのだけれど、やむを得ない。

 コスコトは会員制倉庫型ディスカウント店チェーンで、その創業者はジェームズ・シネガルといい、小売業界の鬼才と言われている。現在(『大搾取!』の著者スティーブン・グリーンハウスさんが取材した当時という意味)アメリカ国内第四位、世界で第八位の規模を誇っているという。(ネット検索したら、コスコトは日本にも出店していた。)

 「会員制倉庫型ディスカウント店」という一風変わった店舗形態名称に私は初めて出会った。(こんな世間知らずは私だけかな?)「会員制」というのは分かる。「倉庫型」というのはどういう意味かな? コスコトは顧客(会員)によい品を安く提供するために余分な経費はかけない事をモットーとしている。店舗にも余分な飾りをしない。実質本位の店舗で、床はセメントだそうだ。商品もきれいに陳列するのではなく、倉庫に格納しているように置かれているのだろう。なるほど、それで「倉庫型」か。

 大概の小売企業は宣伝広告費に売上の2%ぐらいを当てている。コスコトは余分なサービスや宣伝広告をしないでコストを抑えている。その節減分を顧客に還元している。

 ところで、『大搾取!』の第8章は「低賃金の殿堂ウォルマート」だった。ウォルマートはアメリカ国内第一のディスカウント小売店チェーンだが、「低賃金の殿堂」、つまり従業員の大搾取を元手に大きくなってきた企業だ。これからあらゆる面でコスコトと比べられることになる。

 コストコとサムズクラブ(ウォルマートの一部門)は低価格販売で熾烈な競争を繰り広げている。コストコの年平均売上はサムズクラブのほぼ二倍、1億3000万ドル(117億円。以下、1ドル=90円で円に換算しておく。)を売り上げている。さらに、単位面積当たりの売上でも、従業員一人当たりの売上でも、サムズクラブを上回っており、マーケット占有率も高い。

 だが、サムズクラブの幹部たちも、価格はコストコより安いと言い張って譲らない。

「たわごとばっかり並べて」 と、シネガルは言う。「客が知ってるよ。レジの行列を見ればわかる。あっちがそんなに安いんなら、どうしてうちがサムズの2倍近くも売り上げるんだ」

 シネガルは「高く売るより多くを売る」というすサム・ウォルトン(ウォルマートの創業者)の発想を採り入れてきたが、その発想を当のウォルマートより一歩先まで進めている。

 シネガルは商品の販売価格をほとんど仕入れ原価プラス15%(値入率)までに押さえている。大半のスーパーマーケットでは値入率25%、デパートでは通常50%かそれ以上である。ウォルマートは15%以下のことが多いが、商品によっては、特に中国からの輸入品は、100%の値入率である。

 では、従業員の待遇はどうなっているだろうか。

 コストコとウォルマートの低価格論争はとどまることを知らないが、どちらが従業員を優遇しているかという論争はない。なにしろコストコは、国内の総合小売業界では最高水準の賃金および福利厚生を提供していると認められているのだ。

 コストコの従業員一時間当たりの平均賃金17ドル92セント(1617円)。これはウォルマートのフルタイム従業員の平均より70%も多く、サムズクラブ従業員の平均より40%多い。経験5年のコストコのレジ係は、ウォルマートの副店長と同じくらいの収入を得ているという。より詳しく見てみよう。

採用時の時給(フルタイム・パートタイムの区別なく)11ドル50セント(1035円)
 ウォルマートの全フルタイム従業員の平均賃金より1ドル高い。
 勤続4年半で賃金表の最高時給19ドル50セント(1755円)になる。さらにフルタイム勤務の場合、年間ボーナス4200ドル(378000円)と、各401k(確定拠出型年金制度)加入者には積立金4%分の補助がある。これらを合計すると、年収は46000ドル(4140000円)以上になる。

年間ボーナスは
勤続10年…5400ドル(486000円)
勤続20年…8200ドル(738000円)

401kの会社補助
勤続10年…年間賃金の6%
勤続25年…年間賃金の9%

 グリーンハウスさんはこれを「異例の高さ」と表現している。ちなみに、他の企業や職種の賃金は次のようである。

勤続4年の平均賃金
ウォルマート…23000ドル(2070000円)
マクドナルドのシフト主任…27000ドル(2430000円)
モンタナの教師…34000ドル(3060000円)


「けっこうな額ですよ」
と、モンタナ州ミズーラのコストコ店の店長マーク・ショーボエンは言った。
「こういう小さな町じゃ、いい働き口です。誰も辞めませんね」。

 コストコの従業員が満足している証拠として、シネガルはコストコが全米85000人の従業員に行ったある調査の結果を挙げた。従業員たちが訴えたおもな不満は驚くほどささいな ― 1年を通じてショートパンツを穿くことを会社が許してくれない ― ことだった (それ以来コストコはこの規則を変えている)。

 コストコがどこよりも安く売り、しかも従業員にどこよりも高い賃金で優遇できるのはなぜだろうか。またシネガルはどのような経営哲学をもっているのだろうか。
企業経営の社会主義化(3) 小売企業コスコトの場合(2)

 労働者を最大限搾取しようと競っているような新自由主義信奉者にはシネガルが従業員を優遇することが理解できないらしい。そこで「ローマカトリック教徒の家庭で育ったからではないか」などと信仰心にその理由を求める者もいるという。これに対してシネガルは次のように応じている。

「われわれは貧民救護修道女会じゃない。他人のためなんかじゃなく、ただうまみのある商売をしているってだけですよ」

 コストコを立ち上げたとき、シネガルは、こんな低価格は低賃金で労働者を搾取しないかぎり実現できないのではないかと、顧客に疑われるのが心配だった。そこで、コストコのビジネスモデルをつくり上げるのに、従業員には国内の総合小売企業のどこよりも高い賃金を設定することに決めた。それによって労働者を搾取していると客に疑われずにすむだけでなく、確実に熱気ある生産性の高い職場になるはずだと信じていた。

 シネガルは株主より従業員や顧客が優先されるのは当たり前だと考えている。コストコ社員のハンドブックの冒頭にその考えがはっきりと書かれている。

「私たちは任務を果たすため、次のような倫理規定を胸に業務に励みます。
①法を守る。 ②会員様を大事にする。
③従業員を大事にする。
④仕入れ先を尊重する。
 全社を挙げてこの四項目を実践すれば、私たちの最終目標は達成できるでしょう。最終目標とは、
⑤株主に報いる、
ことです」

 企業経営のことなど全く知らない私にとって、次々と意外なことが明らかにされる。

 従業員に十分な給与を与える戦略が、実は経費の節減になっている。なぜだろうか。

その一 従業員の教育費削減につながる。

 アメリカでは毎年、小売企業に勤める労働者の60%が辞めていく。つまり、平均的な労働者は1年半をわずかに上回るほどしか勤めないという。これはたぶん日本でも大差がないのではないだろうか。
 しかしコストコでは、移動率は20%で、平均的な従業員は5年勤める。一年以上勤める従業員だけを見ると、移動率は6%に落ち、平均勤続年数は17年近くになる。

 新規採用者を使える従業員にするために行われる教育には、従業員一人当たり2500ドル(255000円)かかると言われている。(従業員の教育費がこんなにかかるとは、企業内事情に全く疎い私には、にわかに信じられない。)移動率の低いコストコは大変な節約ができることになる。その分を価格下げに回して、顧客に還元している。

 ウォルマートではどうか。主として賃金や福利厚生が少ないことから、移動率は毎年50%前後になる。その結果、国内の店だけで毎年60万の従業員を雇い入れて教育しなければならい。その費用は1年に10億ドル(900億円)を超えるという。

その二 内部窃盗率の低下

 手厚い給与と福利厚生は、即、優れた顧客サービスを提供するよく働く忠実な労働力を生むというのも、シネガルの信念である。そしてその忠実さが内部窃盗率の低下につながっているという。コストコの内部窃盗率は売上の0.1%で、小売業界でも一、二を争うという。業界の平均内部窃盗率はその15倍だっそうだ。

 その高賃金ゆえに、コストコの求人には大勢の応募者が押し寄せ、倍率はたいてい15倍ほどになる。
「入りにくく、辞めにくい、そういう会社です」
とコストコ経営幹部のジョエル・ベノリールは言った。
「コストコでは、もらっている分だけちゃんと働こうと、みんな実によく働きます。厳しい勤労モラルも浸透している。われわれは従業員に言うんです。長く、懸命に、きびきび働け、三つのうちどれか一つでも抜けたらだめだ、とね」

 コストコの2007年の総売上は640億ドル(5兆7600億円)に対して利益は2億ドル(180億円)しかない。ウォール街のアナリストたちは、コストコの従業員の待遇をもっと厳しいものにしたり、価格をほんの少しずつ上げていけいったりして利益を増やすよう、しつこく勧めるそうだ。だがセネガルの信念は揺るがない。

 商品の低価格と品揃えのよさ、さらに従業員の働きぶり、これらがコストコに顧客を引きつけている。すでに2500万人の個人会員(会費50ドル)と500万の小規模法人会員(会費100ドル)が加入しているという。
企業経営の社会主義化(4)
小売企業コスコトの場合(3)


 コストコは賃金以上に従業員への手厚い福利厚生が魅力になっている。『マネー』誌の「福利厚生の充実している会社ベズト50」という記事によると、小売企業としてはコストコ1社だけがそのリストに入っているそうだ。コスコトの医療関係の福利厚生は次のようである。

 従業員が一年に負担する医療費は、だいたい総医療費の10%である(全国の企業の平均が25%、ウォルマ一トは約40%)。そして従業員の83%が会社の医療保険に加入している(ウォルマートは48%)。

 歯科医療保険制度では、従業員は家族保険料として週5ドルを支払うが、それで毎年検診が無料で受けられ、ほとんどの治療費の50%以上が保険でまかなえる。眼科医療保険では、毎年眼鏡が無料で新調でき、コンタクトレンズを作る際は100ドルが支給される。

 コストコの人事担当上級副社長ジョン・マシューズは言う。
「ジム [シネガル]が給与や福利厚生の設定を指示するときは、どこよりもいいものを、なんて程度じゃない。誰が見ても文句なくダントツにいいものを、というのが彼の望みなんです」

 コストコには、ほかにも少々風変わりな従業員優遇策がある。もしポストに就いて2年以上たつ従業員を店長がクビにしたくなったら、その決定はまず地区本部の上級副社長の了解を得なくてはならない。たまたまその日ご機嫌斜めの店長に癇癪を起こされて辞めさせられる従業員が出たりしないように、ということだろう。

 このような従業員へのきめ細かい配慮は勤務形態にも現れている。たとえば、家族のいる従業員には、夜10時から午前5時までは極力仕事をさせないようにしている。

 さらに、大半のディスカウント小売企業と違って、コストコには労働組合に加入している従業員が大勢いる。そしてコストコは従業員が14000人も入っている組合と良好な関係を保っている。

 最後にコスコトの従業員への手厚い配慮の典型例として、フロリダ州クリアウォーターの店のレジ係カレン・ジャクソンさんの例を引用しよう。
 ジャクソンはコストコに深い感謝の念を抱いている。15年勤めているあいだに、何度も便宜を図ってもらったのだ。

 初めカリフォルニア州フレスノの店に勤めたジャクソンだったが、夫が大学を替わり、やがてプロフットボールチームに入り、次にビジネスマンに転職しと、仕事と住む場所を替えるたびに、会社は彼女をモンタナ州の店へ、フロリグ州オーランドの店へと、転勤させてくれた。
「この仕事のおかげで、夫も大学を出ることができたんです。」

 ジャクソンはコストコで働きたいばっかりに、片道170キロの距離をドライヴして通勤したこともあったほどだ。

 ジャクソンのコストコ好きの理由は、最近ではその歯科医療保険制度にある。2人の10代の娘たちに歯列矯正を施して、それぞれ2000ドル(180000円)もかからなかったのだ。コストコの保険がなかったら、1人1万ドル(90万円)から2万ドル(180万円)は払わなければならなかったろう。

 熟練のレジ係の賃金が1時間当たり19ドル50セント(1755円)という、フロリダの多くの店の3倍近いコストコの賃金システムを、ジャクソンは心からうれしく思う。
「これ以上のところはどこにもないわ」

 コストコによくしてもらったから自分もコストコによくしてあげたいと、ジャクソンは言う。
「私たちが走り回って仕事をしていたとしても、それは誰かに鞭で脅されてやっているのではない。古めかしく聞こえるかもしれないけど、毎日、家に帰るとき、自分はいただいている分だけちゃんと働いたかと考えてしまうんです」

 まさに、ただやみくもに利潤を追うのではなく、会社と従業員が持ちつ持たれつで共生しているのだ。コスコトの例はこの意味で、創業者シネガルにはその意識がないかもしれないが、資本主義社会という限界の中での精一杯の社会主義化だと、私には思える。

 もちろん、従業員の待遇がいい会社はコストコだけではない、とグリーンハウスさんは次の2例を挙げて言う。
「これから見ていくように、莫大な収益を上げているわけでもなく、およそ平均的な労働者を雇っている雇用主でありながら、これらと同じような心意気を持つ会社がほかにもあるのだ。」

 ニューヨーク州ロチェスターに本社を置くスーパーマーケットチェーンのウェグマンズは、従業員にこの20年間で5400万ドル(48億6000万円)の奨学金を提供してきている。

 靴メーカーのティンバーランドは、従業員に地域活動をさせるために毎年40日間、また病気の家族がいる場合は看病のため2週間、それぞれ有給休暇を与えている。
企業経営の社会主義化(5)
<番外編>日本における「大搾取!」の実態


 JANJANの本日の記事に海道音更町・十勝川温泉で開かれている「コミュニティ・ユニオン全国交流集会」の報告記事があった。

『「総資本対総労働の状況だ」コミュニティ・ユニオン全国交流集会「総資本対総労働の状況だ」コミュニティ・ユニオン全国交流集会』

 はるばると駆けつけた社民党の福島瑞穂党首(消費者・少子化担当相)の挨拶、「全国ユニオン」会長・鴨桃代さんの特別報告、弁護士・中野麻美さんの記念講演、などが詳しく報じられている。

 鴨桃代さんの特別報告は日本における「大搾取」の実態を明らかにしている。当BLOGの目下のテーマ・関心事と関連したことなので、ここに転載させていただこうと思う。

 全国ユニオンが何が何でも派遣法の抜本改正が必要だと思ったのは、日雇い派遣の問題がきっかけだった。怪我をしても救急車も呼んでもらえず、実質的には時給500円程度。行政も『派遣法制定のとき想定されなかった働き方』だと言っている。

 中間搾取は50パーセントにも60パーセントにも及び、ネットカフェ難民・マック難民と言われる人から毎日数百円の『データ装備費』を取っていた。これだけで、会社全体で毎日200万円もの利益となっている。

 そして、大量に、乱暴に、いきなりの派遣切り。多くの労働者が仕事と住まいを奪われた。この労働者たち、私たちが何とかしなければ……。そんな思いでやむにやまれず開いたのが、『年末派遣村』である。505人が登録し、280人が生活保護を申請した。

 『派遣』はそれ自体、大変リスクのある働き方なのに、なかなか雇用保険にも入れてもらえないなど、セーフティネットすら整備されていない。命まで脅かされている状況だ。

 『救済』だけでは多くの人が網の中からこぼれ落ちてゆく。私たち労働組合は、職場の中で『切らせない』闘いが求められている。そして、やっぱり派遣法を抜本的に改正しなければならない。登録型派遣はなくさなければならない。

 労働者派遣では、派遣会社と派遣先が『商取引の関係』にあり、実際に派遣労働者を切った派遣先に対する責任が一切問われない。このままでは人がモノ扱いされてしまう。

 1.登録型派遣禁止
 2.均等待遇原則
 3.直接雇用みなし規定

 私たちはこれを原則として掲げ、当時野党であった民主党に、一緒に野党案を作ろう、がんばろうと呼びかけてきた。法案自体は衆議院解散で廃案になったが、民主党が政権を担ったとき、その足場にできる、重大な意味のある法案を提出させることができた。

 いま、福島さんから『総資本対総労働』という言葉があったが、人材派遣協会や労務協会の総反撃が始まっている。彼らは私たちのマネをしたのか、派遣労働者を記者会見の場に呼んで、彼らの口から『仕事がなくなる』と言わせている。

 派遣は雇用を生み出していない。仕事を生み出しているのは実際に生産活動をしている就労先だ。労働者派遣がなくなっても仕事がなくなるわけではない。私たちは、雇用を守り、安定させるためにこそ、労働者派遣法の抜本改正を求めている。すでにこれだけ労働者の雇用を奪っておいて、『仕事がなくなる』とは本末転倒もいいところだ。

 派遣労働者が希望を持って働けるようにするために、私たちはここまで闘いを組み上げてきた。10月29日、日比谷公園に10万人を集めたい。労働者派遣法を何としてでも抜本改正しなければならない。そのために、10月29日、ぜひとも東京にお集まりください。

 折しも、昨日の東京新聞に「日本の貧困率15.7% 07年 98年以降で最悪」という記事があり、今日の東京新聞朝刊ではそれをより詳しく報じていた。(相対的貧困率とは、全人口の可処分所得の中央値 ― 07年は一人当たり年間228万円 ― の半分未満しか所得がない人の割合。)

国民7人に1人『貧困』
 仕送りできず 働いても低時給


 国民の七人に一人が貧困状態。厚生労働省が二十日初公表した2007年の「相対的貧困率」で、こんな日本の姿が浮かび上がった。貧困率15.7%は経済協力開発機構(OECD)の最新統計に当てはめると、上から四位の高水準。OECD調査で貧困層の八割を働く人が占めるのが特徴だ。(橋本誠)

 「こんなに高かったのか。でも、今はもっとひどいのでは」。昨年暮れ、栃木県の自動車工場で派遣切りに遭った男性(47)がつぶやいた。二年前は青森県でトラック運転手をしていた。「年収約二百四十万円。妻子と三人で暮らすのは楽ではなかった」と振り返る。

 配送先の倒産で給料の大幅ダウンを迫られ退職。自動車工場の派遣契約も四カ月で打ち切られた。今は労働組合が借りた東京都新宿区のアパートに身を寄せ、生活保護を受けながら仕事を探す。

 「仕送りができず、妻の実家にいる中学生の息子の修学旅行費が心配。資格なしでできる仕事は月給18万円ほどだが、それすら見つからない。働きたいのに…」と焦る。  OECDが集計した二2000年代半ばの最新統計で、日本の貧困率は14.9%。メキシコや米国などに次いで四番目。中でも貧困層全体に占める働く人の割合は82.8%で、加盟国中六番目。OECD平均の62.8%、米国の72%を上回った。

 首都圏青年ユニオンの河添誠書記長は「細切れの雇用が広がって賃金水準が下がり、失業したときの雇用保険の受給率も極めて低い。まともに働いてもまともに食えなくなっている」と指摘する。

 一方、今回調査で18歳未満の子どもの貧困率は14.2%。00年代半ばのOECD調査で、働くひとり親家庭の貧困率は58%とワーストだ。「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」の赤石千衣子理事は「時給などの労働条件が悪く、働くことが貧困削減につながらない。英国は20年までに子どもの貧困率をゼロにする計画を立てており、日本も貧困をなくす義務がある」と話した。

 湯浅誠・反貧困ネットワーク事務局長の話

 1990年代以降、雇用の崩壊とともにホームレスや母子世帯など社会的に弱い立場にある人々が真っ先に貧困化した。「構造改革路線」の影の部分である貧困問題が社会問題にならず、対策も取られず、傷口は広がり続けた。政権交代を起こしたのは、年収200万、300円以下で余裕のない暮らしを営む人たちの「もう我慢できない」という声なき声だ。初めての貧困率測定で、政府は貧困問題のスタートラインについた。